砂糖菓子の恋

□0 プロローグ
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ロンドン・ヒースロー空港発の飛行機にて羽田空港に着いた花は、帰国ロビーの自動ドアを抜けると大きく深呼吸をした。

「1年ぶりの日本。ただいま」

そう心の中でつぶやき、笑みを浮かべる。

「花ちゃん!」
「花〜!こっち、こっち」

その声にキョロキョロと辺りを見回せば、よく似た二人の少年が、大きく手を振って、自分達に気付いて貰おうとアピールしていた。

「隼人くん、悠人くん。迎えに来てくれたんだ。よく、今日帰国するの分かったね?」

幼なじみの新開兄弟にはフライトの予定を話していなかったはずなのに、どうして分かったのだろう?花は嬉しくって、ニコニコと微笑んだ。

「当たり前でしょ!花ちゃんが久しぶりに帰ってきたんだ。そりゃあ、迎えに来るよ」
「悠人くん、身長伸びたね。私より高くなったんじゃない?」

花が昔からの習慣で、自分より少し身長の大きくなった新開悠人の頭を撫でると、悠人はプンプンと頬をふくらませた。

「俺、もう中2だよ!頭ナデナテされるような子どもじゃないよ〜!」

「花、オレは?オレの頭はなでてくれないのか?」

悠人の兄である新開隼人が目の前に頭を付き出してきた。

「隼人くん、すごーく大きくなったのに、花にナデナテされたいんだ?」

花はそう言って隼人のふわりとした赤毛をポンポンと軽く撫でた。



一条花と新開隼人・悠人の兄弟とは、お互いの母親が学生時代からの親友だったため、それこそ生まれた時からの付き合いで、家族ぐるみで親しくしてきた幼なじみだ。

花と隼人は同い年だが、小さい頃から泣き虫だった花にとって、いつも優しく守ってくれる隼人は兄のような存在だと思っている。
隼人より3歳年下の弟・悠人は、花にとっても本当の弟のようで、とても可愛がっている。


「花、おかえり」
「花ちゃん、おかえりなさい」
「二人とも、迎えに来てくれてありがとう。ただいま。………ところで、ウチの小林さんはどこにいるか知ってる?」

小林さんというのは、花の家の運転手で、出迎えに来ているはずなのだが。

「ああ、花の家から今日の帰国予定を聞いたから、俺達が迎えに行くと言って、一条家の迎えを断っといた」

そう言って、隼人はニッと笑って花にバキューンポーズを決めた。




「そう言えば、花は箱根学園に転入するんだって?うれしいな。同じクラスになれるといいな?」

新開家の大きな車に乗り込んだ三人は、ニコニコとした新開兄弟が間に花を挟む形で座った。


そう、今度高2になる花は、帰国により隼人が通っている箱根学園に転入することを決めていた。

「いいなー隼人くん。花ちゃんと同級生で。でも、花ちゃん!また、時々、家に遊びに行ってもいいでしょ? 一緒に色んな所に遊びに行ってくれるでしょ?」

悠人は花の右手をニギニギしながら、上目遣いで甘えてくる。

隼人と花は同い年だが、悠人は3歳下なので高校生活を共に過ごす事はないのだ。
花はニッコリと頷いた。

「もちろん!」



「ところで、花はハコガク通うのに俺と同じように寮に入るのか?」
「ううん。それがパパが寮は駄目だって言うの。通学には毎日車を出すからって」
「そうなのか?花の家からハコガクまでは、車でも2時間以上かかるだろう?」

花は一条家の一人娘で、両親から溺愛されて育てられてきた。

「うん、東京の家からは遠いから、高校に通う間はママと一緒に熱海の別宅に住むんだって」
「えっ?熱海?」
「あそこからなら箱根学園に通学できるからって。パパも仕事が忙しくない限り、別宅に帰ってくるって言ってるの」
「たしかに、熱海の家からだったら花も通学できるし、一条のおじさんも会社に通勤できるかもな」



花の父親は、日本でも有数の企業の経営者であり、毎日満員の通勤電車に乗って朝9時に会社へ行くような時間の使い方をする必要はない。

それは、隼人達の父親も同じで、小学生の頃は、お父さんというものは、皆、迎えの車に乗って会社へ行くものだと、隼人は思っていたし、満員電車なる存在があることを社会科の授業で学んだ時は、驚いた記憶がある。



「じゃあオレ、休みの日に泊まりで花ちゃんの家、遊びに行く!温泉プールにも行こうね!」
「おい悠人、兄貴抜きで花と遊ぶ計画立てんのはやめてくれよ」
「だって!隼人くん、ここんとこ、部活が忙しいってちっとも帰って来ないし、泊まりで遊びに行くなんて無理だろ?」


花を間に挟んでじゃれつく兄弟を見て、花は帰国して良かった。楽しい。と、ニコニコ笑うのだった。



結局、新開兄弟は、花を自宅まで送ったあと、そのまま夕食をご馳走になり、深夜近くなってから帰って行った。




つづき→《 1 スリーピング・ビューティー

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