とりかえばや★箱学

□2 箱根学園
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尽八と天の姉弟は高校生になり、そろって箱根学園に進学することになった。



「もう高校生になるのだ、そろそろお互いの服を交換するのは止めたらどうだ?」

お父さんは、息子が女子高生の格好をしているのを見て、深いため息をついた。

だが、天(男)はそれには答えず、恥ずかしそうに伊達メガネとマスクを着け、長い前髪で顔を隠した。


「天、それではせっかくの美形をみんなに見てもらえないぞ!オレのように、顔を見せびらかしてはどうかね!」

尽八(女)はいつものドヤ顔でそう言う。

たしかに美形ではあるが、男子用の制服を着て、唯一の女の子らしいお洒落アイテムであるカチューシャを着けているのは、女の子としてはおかしなことであるし、男の子としても一見、微妙な格好だ。



「お父さん、お母さん、オレは必ず高校でも活躍する。期待しててくれ!」

お父さんはこちらを見てもため息をつかずにはいられなかった。







尽八が箱根学園への進学を選んだのは、自転車競技のためである。

中2の時から始めたロードバイクにはまり、近場で行われるヒルクライムの大会にでては、カテゴリー別で優勝を総なめにしてきた。もちろん、男子の大会で。

女子の大会もあるにはあるが、ロードバイクをやる人数は圧倒的に男子の方が多く、尽八にとっては勝つ醍醐味がちがう。

高校に入ってからもロードバイクを続けるにあたり、なんとも都合が良いことに、自転車競技の名門高校、『王者』と呼ばれる箱根学園が自宅から程遠くないところにあった。

それに箱根学園には、プールがないので、あの嫌な水泳の授業がないのだ。

男のフリをやめる気などない尽八にとって、これも好都合だった。


男女逆転生活を安全に過ごすためには、お互い、姉弟の存在が不可欠である。
当然のように弟の天も箱根学園へ入学するよう尽八が決め、こうして入学式を迎えることとなった。




「じゃあ行ってくる!」

「行ってきます」


二人はそろって家を出る。子供たちの入学式とはいえ、家業が忙しい両親は式に出席することはできないのだ。

無事に楽しい高校生活が送れますようにと、両親は玄関先で二人を見送った。






箱根学園には学生寮がある。自転車競技部をはじめ、部活動に打ち込んでいる生徒の多くは寮生活をしているらしい。

尽八も本当は寮に入って、朝から晩まで自転車三昧の日々を送りたかった。

でも、寮の風呂は共同の大浴場。普段男のフリをしているとはいえ、身体はれっきとした女。男子寮の風呂で野郎共と混浴などできようはずもない。
かといって、女子寮に入って女として生活するなど真っ平ごめん。

結局、寮生活は諦め、自宅から通学することに決めたのだった。




通学手段は当然自転車。尽八の愛車は白いリドレーだ。
ついでに弟の天にも同じ自転車を買ってもらい、足が綺麗になるからと毎日の練習に付き合わせている。



「天、本当にその伊達メガネとマスクを着けて学校に行くのか?」

尽八は天の容貌を隠す格好にまだ不満だった。自転車に股がりながら弟を振り返る。

「高校は知らない人がイッパイでコワイから………」

人見知りの激しい天にとっては仕方のないことなのだろう。天もゆっくりとサドルに腰をおろした。

「まぁ、徐々に慣れるしかないな!クラスが別々になったから、オレもいつもはかばってやれんしな。学校で何かあったらすぐにオレに言うのだぞ!では行くぞ!」

「うん………行こう」




天は制服のスカートの下に体操着のジャージをはき、尽八と共に新たな生活へとペダルを漕ぎだした。




♀つづき♂《 3 入学初日

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