僕とアイツと彼奴と私

□心拍
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これは、出逢いのものがたり。
時代は遥か遥か遠くーーー。











「つまんないなぁ。」

そう言葉を紡いだ男の声が、静かな山の中をすぅっと通る。
ひらりひらりと袖を軽やかに揺らしながら歩くその男は、何かをーーー面白いものを探すようにきょろりと首を動かしながら木々の間を抜けていく。
男の名は白澤といって、これでもれっきとした神獣である。

まぁ、今は置いておこう。

白澤は、気の向くままにふらふらと歩いていたが、ふと足を止める。
微かに水の音が聞こえたのだ。

しめた、と頬を緩ませる。

自然豊かな山奥の水は何処も美しいもので、美しい水には美しい女の神や精霊がつきもの。

女好きな白澤は機嫌を良くしてせせらぐ水の元へと向かった。





「………?」
白澤は木陰に身を隠して川辺を見つめていた。

(こんな山奥に人の子が。)

白澤が見つめる先には、小さな子供がいた。
見た目6、7歳だろうか。長い黒髪を頭の後ろで団子にしていて、白い布で巻いている。動作は頼りなくて繊細、という印象だ。

(10年したら化けるな。)

遠くから見る限り、華奢な少女らしい子供を白澤は一目で気に入った。

「ねぇ、君。」
「………だれですか。」

こちらに向かってくるーーー山を歩くには不釣り合いな格好をする男に、子供は警戒心を抱きつつ返事を返す。

思ってたより低い声だな、と白澤は思ったが気にせず歩み寄る。

「君、何処から来たの?名前は?可愛いねぇ。」

そう言って笑顔を向けるが、子供は年に釣り合わない顔で見返してくるだけだった。

「あぁ、僕別に怪しい者じゃないよ?」

うそつけ、と子供は思ったが、しかし胡散臭くとも不愉快ではない男の雰囲気に負けてしまう。

「わたしは、向こうの林のおくにある村からここに水をくみにきました。…なまえはありません、丁と呼ばれてます。」

言いながら丁と名乗ったその子は、白澤を無視して水瓶を両手に抱えるようにして林の方へと向かう。

「そっか、丁ちゃんって言うんだ。」

白澤は笑顔のまま後ろ手を組んで丁の後について行く。
が、途端に鋭く睨まれてしまう。

ああ、そうか。と白澤は足を止めた。
余所者がホイホイ行っていい訳が無いのだ、失念していた。

「ふふ、そんなに睨まないで?…また明日、ここで会おう。」

白澤は笑って手を振る。

「そんなの………っ!」

おことわりです、と言いかけた丁の体を一陣の風が吹き抜ける。
思わず目を閉じてしまったが、再び目を開けるとそこに白澤の姿は無かった。

ふと水瓶の中を見てみると、見たこともない薄桃色の花弁が一枚、ふわふわと浮かんでいた。

それを取り除こうとした丁だが、何故か先程の不思議な男がちらつく。

まぁいいか、と息をつくと、丁は悪路を懸命に歩いて村へと戻っていった。











「また会える、必ずね。」

川から離れた木の上で、白澤は笑った。

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