小噺。

□「嫌よ嫌よも好きの内。」(未完成)
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「嫌よ嫌よも好きの内。」

『ガラッ…』
「失礼します。白澤さん、薬を取りに来ました」
「鳴呼、鬼灯さん、いらっしゃい」

鬼灯と桃太郎の間、どちらかと言えば鬼灯の方、視界の下方にきょとんとした顔で怯えながら鬼灯を見上げる黒髪の子供が2人。
その腕にはこれまた怯えた様子の兎が居た。

「…桃太郎さん…」
「はい?」

鬼灯はそのまま桃太郎の方に近付いた。

『ひそひそ…』
「まさかとは思いますが、あの子達は白澤さんの隠しg…」
「違うからっ!!断じて違うからっ!!」

居間から出て来たばかりの白澤が鬼灯に的確で鋭いツッコミを入れる。

「おや、白澤さん、居たんですか」
「此処僕の店だからっ!!」


「おいで、2人共」

子供は白澤に呼ばれると、兎を解放し、白澤目掛けて走りだし、その左右の膝にそれぞれしがみ付き、顔を埋めた。

「泣かなかったの?偉いねぇ」
『なでなで…』
「大丈夫だよ。そんなに悪い人じゃないよ」


「…それで?」
「ん?」
「…その子達はどう言う…」
「あれ?逢ってないの?閻魔殿に行くから預かって欲しいって言うから、預かったのに…」
「はぁ?」
「そっか〜。あの娘なら先ず最初に賽の河原に行く筈だもんね?」
「…そんな意味不明な無駄話をしに来たんじゃ有りませんよ」


「見憶え無い?」

子供は黒髪では在るが、母親と思わしき銀髪の人物に思考が辿り着いた。

「…。…もしかして光さんの子ですか?」
「御名答」
「…そうですか、光さんの…」

そう言われれば、白過ぎる肌、大きな瞳、色素の薄いつんと形の整った薄い唇、ほんのりと紅い頬等、それ等の共通点がはっきりと一致する。

「と言うより、光さんが若返り薬でも飲んで小さくなっただけじゃないんですか?」
「髪が黒いだろ?それに光の瞳は銀色だ」
「…確かに、この子達の瞳は蒼と紅ですしね」

「清華さんにも梔美さんにも縷羅さんにも似て居ます」
「基本は遺伝子が同じだからね」





『くいっ…』
「ねぇ、お兄さん。」
「鬼灯です。閻魔殿で閻魔大王の第一補佐官をしています」
「閻魔様?母様のお友達?」
「貴方達の曾々お祖母様、清華さんに育てて貰いました」
「「清華お祖母様に?」」
「じゃあ、アナタが母様が言ってた鬼灯兄様?」
「恐らく」


「実は、貴方達が産まれた時に逢ってるんですよ。その後も何回か。最近は貴方達が眠っている時間にばかり行くので、逢うのを止められてるんですよね」





「良いですか?この男は誰彼構わず女性に手を出すので、充分に注意してくださいね」
「出さないよっ!!失礼だな…。そもそも、その娘の一族は“不交の誓い”を立ててるから、出せないし、出さないし」
「白澤様、“不交の誓い”って何スか?」
「鳴呼、鬼子母神一族が全員立てる誓いだよ。一生、誰とも交わらないんだ。あー、僕鬼子母神一族に生まれなくて良かった」
「鳴呼…そう言う事ですか…。あ、後、鬼子母神一族って何スか?」
「そのまんまの意味だよ」
「否、そうじゃなくてですね…」
「…オブラートに五重位に包んで言うと、単一繁殖出来る一族だよ。だから、男は産まれない筈なんだけどな…。まぁ、この子達は規格外」

白澤の足許で兎と遊んでいる双子は、鬼子母神一族の特徴である、銀髪と銀色の瞳、そして男が生まれないと言う特徴を大幅に無視した様な存在であった。

だがしかし、白過ぎる肌、常人より小さな躰、細長い手足、額の朱い花紋等、それ以外の特徴はしっかりと受け継いでいた。





「鬼灯、解ってると想うけど、額の花紋を消しちゃ駄目だからね。封印が解けたら、僕にもどうにも出来ないからね」





「鬼灯兄様は白澤兄様とすごく仲が良いんだね。」


『ドゴォッ…』
(何で僕っ!?)



「久遠さん、紫縁さん、よく憶えて居てください。これは腐れ縁、と言うのですよ?解りましたね?」





「はあー…何でアイツは何時も僕に暴力を振るってくるかなぁ…」
「「…痛い…?」」
『なでなで…』
『なでなで…』
「んー?大丈夫だよ〜?そんなに痛くないよ」
「「痛いの痛いの、飛んでけー。」」
「うんうん。久遠も紫縁も良い子だね。ありがとう」
『なでなで…』
『なでなで…』






「鬼灯兄様、貴方、寝不足でしょ?」
「それがどうかしましたか?」
「寝てください。3時間昼寝するだけでも違うから」
「…」
「鬼灯兄様、3時間したら起こしてあげるから。仕事の効率の為にも眠って」
「…はい」

「深い眠りに落とすから、瞳を瞑って?そしたら、ゆっくりと深呼吸して?」

光さんが私の額に右手を当て、聴き取れない位に小さな声で呪文を唱え始めた。

「おやすみなさい」

光さんが静かに部屋を出た事に私は気付かなかった。


「…いさま…き兄様…起きて、時間よ、鬼灯兄様」


「鬼灯兄様、これ飲んで。白澤兄様の金丹よ」
「…」

光は鬼灯に青地の布に包まれた金丹を差し出し、困った様に微笑った。

「…本当は、もう少し寝かせてあげたいんだけど、私も400年分の空白には勝てないわ。鬼灯兄様の能力がどうしても必要なのよ」
「…夢を観ていました…」
「へぇ、どんな?」
「詳しくは想い出せませんが、3時間だけ眠らされた筈なのに、3日眠っていた気分です」
「荘子の胡蝶の夢ね」
「儚くは無いんですがね…」



「光さん」
「何?」
「…もっと混乱しているものかと…」
「ちょっと人は多くなっちゃったけど、休憩中の人を除いて、手が空いてる人が居ない様に組み直したの。勝手な事をしてごめんなさい」
「いえ、構いません」

金丹の手配と言い、仕事の分配と言い、その人物が必要としているモノを、その人物に適合しているモノを、瞬時に判断し命令を下す姿は400年の空白を感じさせないモノだった。
流石と言うべきか、矢張りと言うべきか、血は争えない。


「あーあー鬼灯ちゃん、幾ら白澤兄様の事が嫌いだからって、踏んじゃ駄目よ?降りなさい」



「この駄獣がぁっ!!」
「ひぃぃいいい…」


「ん?あれ?あれはねぇ、“嫌よ嫌よも好きの内。”って言うのよ」
「「ふーん…」」

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