*夢――雨降り貴婦人
□3.日常
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「ふお」
やばい、変な声が出てしまった。
「どうかしました?」
ちょうど隣にいた賢治くんが話しかけてきた。
「花、咲いてる・・・!」
「え?例の乙女ちゃんですか?」
「うん」
ただいまの時刻は午前7時。
探偵社も静まり返っている。
早起きの賢治くんと偶然社に居合わせたのだ。
私はただ単に仕事で早く来ただけなんだけど。
「へぇ、可愛い花ですね」
「でしょ」
名前:乙女(イツキ) 性別:♀(だと思っている)
サボテン科マミラリア属。
ようするにサボテン。
ちなみによく聞かれるのだけど、名前の由来は花言葉の『内気な乙女』『枯れない愛』から取りました。
「すごく育てるの難しいんでしょ?」
「うん。でも順序に従っていれば大丈夫」
ねー?と、乙女に話しかけた。
ああ、心なしか笑ってる気がする。
素敵。
「これだからやめられないんだよね。
今度華道の真田姉さんに持って行ってあげよ」
「華道って、また新しい趣味ですか?」
「んー・・・茶道の先生が華道の先生紹介してくれるっていうから入っただけ」
ていうか持って行っても多分華道には使えないと思うんだけどね。鉢植えだし。
「疲れません?毎週休みないじゃないですか」
「えー?」
実際、そんなこと無いんだけどな。
楽しいし。
趣味だし。
すると賢治くんはその様子を察するなり、静かに笑った。
「――羨ましいです。名前さんの生き方」
・・・そう、なのかな。
「んーん。楽しい事ずっとやってるだけだし、まだまだ子供だよ」
なんて。
賢治くんって何歳だっけ、確か年は7つくらい違うはずだ。
なのに、賢治くんったらこんなに大人びているんだもの。
やっぱり私が子供か。