*夢――雨降り貴婦人

□3.日常
1ページ/3ページ



「ふお」



やばい、変な声が出てしまった。



「どうかしました?」



ちょうど隣にいた賢治くんが話しかけてきた。



「花、咲いてる・・・!」


「え?例の乙女ちゃんですか?」


「うん」





ただいまの時刻は午前7時。


探偵社も静まり返っている。



早起きの賢治くんと偶然社に居合わせたのだ。



私はただ単に仕事で早く来ただけなんだけど。



「へぇ、可愛い花ですね」


「でしょ」



名前:乙女(イツキ) 性別:♀(だと思っている)

サボテン科マミラリア属。


ようするにサボテン。


ちなみによく聞かれるのだけど、名前の由来は花言葉の『内気な乙女』『枯れない愛』から取りました。



「すごく育てるの難しいんでしょ?」


「うん。でも順序に従っていれば大丈夫」



ねー?と、乙女に話しかけた。


ああ、心なしか笑ってる気がする。


素敵。



「これだからやめられないんだよね。

 今度華道の真田姉さんに持って行ってあげよ」


「華道って、また新しい趣味ですか?」


「んー・・・茶道の先生が華道の先生紹介してくれるっていうから入っただけ」



ていうか持って行っても多分華道には使えないと思うんだけどね。鉢植えだし。



「疲れません?毎週休みないじゃないですか」


「えー?」



実際、そんなこと無いんだけどな。


楽しいし。


趣味だし。



すると賢治くんはその様子を察するなり、静かに笑った。



「――羨ましいです。名前さんの生き方」



・・・そう、なのかな。



「んーん。楽しい事ずっとやってるだけだし、まだまだ子供だよ」



なんて。


賢治くんって何歳だっけ、確か年は7つくらい違うはずだ。



なのに、賢治くんったらこんなに大人びているんだもの。


やっぱり私が子供か。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ