涙 雨

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「もう帰っちゃうの…?」


まだ薄暗い部屋に沖田さんの声が響く。


「…雪さんが心配してると
いけないから…。」

「それなら大丈夫だよ。」

「え?」

「花ちゃんは僕と一緒にいますって
ちゃんと伝えてもらったから。
だから、こっちおいでよ。」


沖田さんの腕に包まれてそっと目を瞑る。


本当は…離れたくない…。


沖田さんの胸に擦り寄ると
細い指が私の頭を撫でてくれる。


「花ちゃんと雪さんって姉妹なの?」

「あ…違います。
雪さんは行く当てのなかった私を
助けてくれた命の恩人です。」

「命の恩人?」

「そう…。命の恩人。」




幼い頃に両親をなくしてから
親戚の家を転々として生きてきた。


それなりに仲良くやっていけるって
思っていたのは私だけで…。


ある日私は身売りされることになった。


信じてたのに…。


悔しくて涙が出た。


身売りされるくらいなら
1人で生きて行こう…
そう思って家を飛び出した。


そんな簡単なことじゃないのは
分かっていたけど…。


さみしくて、ひもじくて…
道端に座り込んで泣いた。


その時…行くとこないなら
うちの店手伝ってよって
雪さんと龍之介が
声を掛けてくれたんだよね。


あの時食べたあたたかいお団子は
私の冷え切った心まで温めてくれたんだ。


「私は雪さんの為なら何でもする。」

「…僕と一緒だね…。」

「…え?」


沖田さんの指が私の唇をそっとなぞる。


「…もっと花ちゃんのこと教えてよ。」


切なげに揺れるその瞳に胸が苦しくなる。


「私も…沖田さんのこと知りたい…。」





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