真選組血風帖-鎌鼬記-

□沖田総悟誕生祭2014(七夕篇)
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屯所の庭に、大きな竹が運ばれてきやした。立派な竹でさァ。笹の葉がフッサフッサと揺れてやす。
「よーし、そこでいいぞー」
近藤さんが指示を出して、隊士の皆さんがそれに従い竹を設置しやした。でも、何故に竹?
「そーご、そーご」
竹を眺めてるそーごに訊いてみやす「なんでいきなり竹が運ばれたんですかィ? 竹わっしょい祭りですか?」
「何だそのパンダが喜びそうな祭り」
そーごは呆れたように肩を竦めやした。人差し指をスッと立てやす。
「今日は、七夕だ」
「たなばた? 棚がバタンて倒れ――」
「なワケあるか」
「あたッ!」
そーごが俺の額を指でピンと弾きやした。所謂(いわゆる)、デコピンでさァ。
「七夕ってーのは簡単に言うと」
そう言ってそーごは説明し始めやす「むかーし昔、織姫と彦星っていうリア充がいたんだ。その2人は結婚したんだが、あまりにリア充しすぎて仕事をしなくなっちまった。織姫の父さんである神様は怒って、2人を天の川の西と東に別れさせたんだ。だが織姫があまりに悲しそうなもんだから、1年に1回、7月7日の夜だけ会うことを許した。それからというもの、2人はその日を楽しみに仕事に励み、待ちに待った7月7日の夜、再会を果たす――そんな感じの話だ」
「ほぇー。なんか変な話ですね」
「そうか?」
そーごが小首を傾げやした。俺は率直な感想を言いやす。
「なんで恋人……それも、夫の元に行くのに親の許可がいるんですかィ? 川なんて泳いで渡りゃあいいじゃねえですか。特に彦星。そん位の度胸みせてこそでしょうに」
そーごは赤い目をパチパチさせていやしたが、やがてププッと吹き出しやした。
「そうだな。いくら神とはいえ、父さんが夫婦の仲を引き裂いちゃいけねえよな。はは、瑛莉の言う通りかもしんねえ。……でも…………」
そこまで言ってそーごは少し切なそうな表情になりやした。そーごがこんな顔見せるなんて、珍しいです。
「親ってのは、子の為なら心を鬼にすることもあるんじゃねえのか? 遊んでばっかじゃ2人の為になんねえから、泣く泣くそうせざるを得なかったのかもしんねえ。親なしの俺らには、分からねえな」
え…………?
「そーごも親……いねえんですか……?」
「ああ。俺が小さい頃に死んだ。前に姉上がいるって話したろ? その姉上が、俺を育ててくれたんだ」
「そう、だったんですか…………」
親の記憶が全くねえ俺だって、街で楽しそうな親子見て羨ましく思うときがありやす。きっとそーごは、もっと…………
「そんな顔すんな。俺も親のこと、ろくに覚えてねえんだ。今更悲しくなんかならねえよ。俺には姉上がいたから、寂しくなんかなかった」
そう言ってそーごは俺の頭をくしゃりと撫でやした。
そーご、俺も…………
「俺もでさァ、そーご。俺の場合、『亡くした』んじゃなくて『いなかった』だから、何にも覚えてねえから、悲しくありやせん。俺には、初めから傍にいてくれた人がいやす。親の代わりに総てを与えてくれた人がいやす。俺を俺にしてくれた人がいやす。それに今の俺には、こんな大きな家族だってできやした。血なんかよりずっと強い志と絆で繋がれた家族でさァ。だから俺も、寂しくなんかねえです」
「そうだな。俺たちは、家族よりも家族だ。まあ、俺には本当の家族がいるけど、でも、俺と瑛莉だって兄弟だ。血の繋がりはなくたって、俺がそう思ってんだ。瑛莉も俺の、大切な家族でィ」
そーごが俺に目線を合わせて笑ってくれやした。俺もつられて笑顔になりやす。
「ありがとうごぜえやす、そーご! 俺ァ幸せ者(もん)でさァ!!」
と、そのときでした。
「おい総悟、ちょっと来い。手伝え」
そーごが土方さんに呼ばれやした。そーごはぶんむくれた顔を土方さんに向けやす。
「何ですかィ土方さん。折角瑛莉と深イイ話してんのに。なー瑛莉?」
「ヘイ! だから空気読んでくだせェよ、土方さん。無粋な犬の餌マニアは嫌われますぜ?」
土方さんのこめかみに青筋が浮きやした。
「誰が犬の餌マニアだ」
「あー、すいやせん。アレを犬の餌って呼ぶのは失礼でしたね…………犬に」
「どういう意味だコラ風谷。マヨネーズ馬鹿にすんじゃねえぞこの野郎。…………っと、それより総悟、早く来い。短冊切るのはお前の担当だ」
その言葉にそーごは面倒臭そうに両手を頭の後ろで組んでため息をつきやす。
「ヘーヘー、分かりやしたよ。じゃあまた後でな、瑛莉。準備できたら呼ぶから、部屋戻ってろィ」
「人手が足りねえなら俺も行きまさァ、そーご。早く終わるに越したことねえでしょう?」
と、そーごのあとを追い掛けようとしたときでした。
「あ、風谷!」
近藤さんが俺を呼びやした。手招きをしてまさァ。俺は近藤のとこまで小走りで向かいやす。
「風谷、突然ですまないんだが、買い出しを頼まれてくれないか?」
「買い出し? いいですぜ」
「じゃあ、そうめんを買ってきてくれるか? 屯所にある分だけじゃちょっと足りなくてな。これ、お小遣いだ」
「分かりやした!」
「ああ、頼んだぞ。今は廃れてきてるが、七夕にはそうめんを食べる風習があるんだ。お小遣い余ったら自分のにしていいぞ。風谷のおつかい代だ! 18時までに帰るなら寄り道してきてもいいからな!」
近藤さんがニカッと笑いやした。俺は頷きます。
「ヘイ! んじゃ、いってきまさァ!」
俺は財布を取るべく部屋に戻りやした。
財布を懐に入れて部屋を出ようとしたときでした。暦が目に留まりやした。へぇー、7月7日のとこにちゃんと『七夕』って書いたりまさァ。
何の気なしにそれを眺めていて…………俺はあることに気づいちまいやした。
……あーもう。俺の馬鹿。今の今まで気づかないなんて。
俺は財布の中身を足して、かぶき町へと駆け出しやした。
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