真選組血風帖-鎌鼬記-

□万事屋邂逅篇
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ある昼下がり、緊急招集が掛かった。
指名手配犯・桂小太郎の目撃情報があったという。くわえタバコで土方が言った。
「桂は万事屋へ向かったそうだ。奴等が匿っている可能性が高い。一番隊は武器を取れ! 真選組出動だ!!」


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「ねえ そーご、桂ってどんな野郎なんですかィ?」
風谷が紅い目を興味で輝かせて沖田に問う。黒く長いポニーテールが跳ねた。
「そういや瑛莉は知らねえよな。長髪の攘夷浪士だ。一応穏健派だが、犯罪者に変わりはねえ」
「成程。要は、長髪の犯罪者みっけて叩っ斬りゃあいいんだな? 総悟」
そう言って風谷は土方に刀を向けた。
「ふざッけんな! 誰が長髪だ!! 誰が犯罪者だッ!!」
土方はスパンと風谷の頭をはたく。
「……チッ」
「舌打ちしてんじゃねえよ! 何なんだテメェ!!」
「くたばれ副長さん」
「あ゛ァ!?」
「まあまあ、いいじゃねえかトシ。実際、前は長髪だったんだし」
苦笑いで土方を宥める近藤。その言葉に納刀した風谷が驚く。
「え、マジですかィ?」
「おう。ちょうど瑛莉みてえな髪型だったんだぜ」
ニヤニヤして沖田が答えた。
「え……マジですかィ…………?」
「昔の話だ! 露骨に嫌な顔すんじゃねえ!!」
今度は拳骨で風谷を殴る土方。
「いって!!」
涙目になる風谷の頭を撫でながら、沖田は剣呑な目を土方に向けた。
「ちょっとー土方さァん、瑛莉に暴力振らないでもらえやすゥー? これ以上瑛莉の知能の働きが鈍くなったらどうするんですかァー」
「そーだそーだ!!」
「反論しねえの!?」
土方は驚いた「今オメェ遠回しに馬鹿って言われたんだぞ!」
「え!?」
「気づけ馬鹿!! あ、やっぱ馬鹿なんだ」
「馬鹿言わねえで下せェッ! 足し算位ェできまさァ! 引き算も!!」
「掛け算と割り算は!?」
目を剥く土方に風谷はフフンと胸を張る。
「1の段は完ッ璧でさァ!!」
「威張るな!! つまりは足し算じゃねえかァァ!! つか九九できねえってお前本当に15歳!?」
「……おい、トシ」
近藤が土方を呼んだ「着いたぞ」
「お、おう。すまねえ、近藤さん」
「へぇ……ここが、『万事屋 銀ちゃん』…………」
風谷がポツリと呟いた。それを見て沖田が馬鹿にしたように笑う。風谷をよしよしと撫でた。
「お、よく『まんじや』って読まなかったな。偉いぞ、馬鹿のくせに」
「いや、だってさっき土方さんがそう言ってたやしたから」
「お、細かいところまでしっかり覚えてたな。偉いぞ、馬鹿のくせに」
「どんだけ俺を馬鹿扱いしたいんですかッ!?」
「総悟、そのへんにしておいてやれ。いくら事実でも可哀想だ」
「近藤さんまで!!? みんなしてひでえや!!」
風谷が泣きそうな声を出すが、誰も気にしなかった。
土方を先頭にして階段を上がる。少年の声が聞こえてきた。
「ギャーギャーギャーギャーうるせえんだよ、眼鏡のくせに」
「眼鏡って言うなァァァ! 何なんですか、いきなり現れたと思ったら さっきっから黒い発言ばっかり!!」
「だから何回言わせんだよ。俺は――」
土方は沖田たちに目配せすると、万事屋の扉を蹴破った。
「真選組だァァァ!!」
そこにいたのは、銀髪の侍と眼鏡を掛けた少年とチャイナ服を着た少女、そして、銀髪の侍と同じ服を着た黒髪天然パーマの少年と思しき人物がいた。
銀髪の侍が面倒臭そうに声を上げる。
「あ? 何だ? 何の用だ? 家宅不法侵入ですかこのヤロー」
「とぼけるな。ここに桂がいるって情報が入ってんだよ!」
バチバチと火花を散らす2人。そこに、眼鏡を掛けた少年の声がした。
「アレ? 銀さん、見たことない人がいますよ」
そう言って風谷を指差した。風谷は辺りを見回すと首を傾げる。
「いやアンタだから! アンタしかいないから!!」
「んあ? 俺ですかィ?」
「そうですよ! 初対面でしょ、僕たち!!」
「そーですねィ」
「興味なし!?」
「……ん? あーコイツのことか」
沖田が納得したような顔をする「コイツァな、馬鹿のくせに入隊早々隊長格になった俺の妹分でィ」
そう言って沖田は風谷の腕を取り土方を押し退けて前へ出た。
「そーご! 誰が妹で――」
「おい、ちょっ、総悟テメェ!!」
風谷がつっこみ、土方が喚くも、誰も気に留めない。
「お前、妹なんていたアルか!?」
チャイナ服の少女が興味津々といった風に身を乗り出した。風谷のこめかみに青筋が浮き出る。
「だから、誰が いもう――」
「血の繋がりはねえさ、チャイナ。ただ、それに近い関係ってこった。おい、旦那たちに自己紹介してやれ」
「あ、ヘイッ!」
風谷は返事をして万事屋の方を向いた「真選組一番隊副隊長の風谷瑛莉と申しやす。『真選組の鎌鼬』とも呼ばれてまさァ。以後、お見知り置きを。えーっと、アナタが『旦那』で、『チャイナ』に『眼鏡』に『黒髪癖毛』ですね。宜しくお願いしますぜ、万事屋さん」
風谷が屈託のない笑顔を万事屋に向けた。
「坂田銀時な。ま、別にいいか」
銀髪の侍が困ったように言う。
「服で呼ぶんじゃねえヨ! 私は神楽アル!!」
チャイナ服の少女が怒る。
「誰が癖毛だ! これは天然パーマだ!!」
少年と思しき人物が自分の頭を指で示す。
「眼鏡って言うなァァァ! 志村新八です!! ……って、え!? アナタが『真選組の鎌鼬』!?」
眼鏡を掛けた少年が目を丸くした。
「知ってるアルか、新八」
「あ、うん。この前新聞に載ってたから。確か……これこれ。あ、本当だ。おんなじ顔だ!」
新八は新聞と風谷を交互に見た「すごいですよね。入隊早々、副隊長に就任! 隊士30人抜きをした上に沖田さんと引き分けたんでしょ? それに、女の子で真選組に入るなんて――」
その言葉に風谷が噛みついた。
「誰が女の子ですかッ! 俺ァ男でさァ!!」
「へッ!??」
新八がギョッとする。沖田が割って入った。
「まあまあ、こういう奴なんだ。そういうことにしといつくれィ」
「それ、どーゆー意味ですかィ? そーご」
風谷がジトッとした目で沖田を見る。しかし沖田はそれを気にすることなく、逆に万事屋に質問した。
「テメェらこそ、見ねえ顔がいるじゃねえか。誰でィ、このガキ」
「ガキって言うなガキって」
「じゃあ、誰でィコイツ」
「コイツと言うなコイツと」
額に青筋を浮かべる少年の代わりに銀時が答える。
「俺もよく分かんねえけど、迷子ってことになるな」
「んーまあ、そんな感じかな」
透き通った海のような、引き込まれそうな深みのある蒼い瞳を持った少年が言った。黒い天然パーマの髪。腰に差した木刀。着流しにブーツといった格好は、銀時とそっくりだ。
「星河侑輝(ほしかわ ゆうき)ってんだ。今日から万事屋の一員になることになった。まあいっちょ宜しくたの――」
「とにかくだ!」
自己紹介しかけた星河を無視して土方は抜刀する「桂を探せ!! まだここにいるはずだ!!」
それに合わせて沖田たちも刀を抜こうとした。しかしそのとき、
「ってかテメェらいつまで俺の前にいる気だ!! どきやがれ!!」
土方が風谷を押し退けた。抜刀しかけた風谷がよろめく。風谷の瞳が刀身に映る。
――あ…………ヤベッ……!
自分の目を見て、風谷はそう思った。

瞬間、風谷が纏う雰囲気が豹変した。
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