補充2

□憎悪の心
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「復讐?」

口から零れた言葉は、なんとも気の抜けた声だっただろうか
その声に少し癪に障ったのだろう、向かいに座って焚き火にあたっている騎士は目を細め傭兵を鋭く睨み付けた
しかしその事を気にせずに傭兵_雇われ騎士ノイジィは頬をかきつつなんとも間抜け面で白銀騎士トラヂェディを見ていた

『……』

苛立っていることも隠しもせずに、トラヂェディは舌打ちを零し、食べかけていた干し肉を再び口へと運ぶ
その様子にノイジィは笑みを零し、喉を震わせ笑う

「復讐か、へぇ…何とも金にならない話だ」

『煩い』

バッサリと言葉を切り捨ててもノイジィは笑う
何がそんなに面白いのか分からないが、ただ腹を抱えて笑っていた

『…何がそんなに可笑しい』

苛立ちを含んだ声色で投げかけられた言葉に、ノイジィは笑いつつ答える

「無駄な時間だ」

と……
トラヂェディは無言で返す
何故ならば、それは自分もちゃんと自覚して出していた答えだったからだ
しかし復讐は今の自分には無くてはならないもので、これがなければ自分は何も出来ずに彷徨ってしまう事が目に見えていた
そして何よりも、この憎悪が今の自分を突き動かす動力なのだから無駄だと分かっていてもやめようと、簡単には思わなかった

「なぁ、お前はそれが正しいとは思ってねぇんだろ?でもやめられない、それは何でだと思うよ?」

『お前に話すことはない』

「おいおい、そりゃねぇだろ?少なくと今は一緒に旅する仲間なんだからよー」

何が仲間だ、勝手についてきてるだけじゃねぇか
そう視線で訴えるが、向かいに座っている相手はにんまりとしたままで返答はしない
分かっていて聞いてくるのだからタチが悪い

「俺は金さえ貰えれば何処にだって味方する、敵にもなる。俺が傭兵をやめられないのは金が欲しいからだ。金が欲しいから傭兵をやるんだ」

ノイジィは言う、まるで子供に言い聞かせるように一言一言ハッキリと大きな声で
自分は金のために動いている、だからやめられないしやめる気もない
理屈はどうであれ自分の信念を曲げる気はない…、そう笑いながら言う
空に指を差し、高らかに
自信満々に宣言する

「俺の人生で大切なのは金だ!!外道だろうがなんだろうがなぁ、それだけはかえられねぇ!」

満天の星空に、大声が響いた
雲ひとつない空は、その声を吸い込み空気へと溶けて消える
自慢げに言ったノイジィはとても誇らしげであった
トラヂェディは、目を丸くしたまま少しだけ笑みを浮かべる

『金が…お前の人生で大切なものか。馬鹿馬鹿しいが、筋は通ってるな』

「だろ?」

お互い顔を見合わせ笑う
求めているものはそれぞれ違う
やろうとする事も勿論…

「トラヂェディ、お前が復讐するのに俺は良しも悪いもないと思う。他の誰かがそれは最低なことだと言ってもな」

『……』

「だけど、一度決めたことは最後までやり通せ。お前が復讐を終わらせた時、きっと何か変化があるだろうさ」

パチリと焚き火から火花が散る
ノイジィの紫の瞳がジッとトラヂェディを見て、逸らされる事はない
だからこそ、トラヂェディも目を逸らさなかった

『……俺は、やり遂げるさ。誰かが邪魔しても…絶対に』

復讐というなの敵討ち
あの日、自身の目の前で起きたのは一生忘れられない出来事となり今でも悪夢となって蘇る
白銀の鎧を赤く染めた父親は、トラヂェディの目の前でその命の灯火を小さくし
あっという間に消えてしまった
一瞬で過ぎてしまった時間は戻ってくることはなく
心に刻んだのは、憎悪
望まれない復讐だとしても、悲しまれる敵討ちだとしても
トラヂェディはやめる気はなかった

「無事、復讐出来たら報告よろしく」

『会えればな』

相手はブリティス王国の皇子
手を出せば、自分の命がどうなるかなど…分かっている
だからこそ、会えればと言うのだ
ノイジィは両腕を頭の後ろに回し、枕代わりにすると地面へと寝転がる

「会えるだろうよ」

確信がなくとも、俺はそう思ったからな
欠伸を零しながらノイジィは言うとそのまま寝に入る
自由な奴だと、思いながらもトラヂェディは焚き火の火を消し、木の近くへと腰を下ろし背を預ける
お互いマントを布団代わりにして、寝に入ろうとする
トラヂェディはぼんやりと、考える
もし、あの時自分が守れる力があったのならば…と
今でさえまだ無力だと感じ、弱いとさえ思える

何時か必ず……

瞼を閉じ、トラヂェディは静かに意識を沈める
どうか今日だけは
いい夢が見れますように

憎悪に染まった心に希望を抱かせ
夢の世界へと落ちたのだった



END

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