補充2

□幸福の神様の親衛隊
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「ぜーったいに俺が行くんや!!」

「いーや、俺だ」

ギリギリと先ほどから目の前で火花を散らせ頑なに自分の意見を譲ろうとしない哀れな天使二人メルダーとデーゲンを、指揮するもの_ソルダートは半分面倒臭そうに見ていた

ことの始まりは少し時間を遡る
自分達が敬愛する幸福の神ことベロボーグが何時も頑張っているからと小さな贈り物をもらったのだ
それはベロボーグが自分で作ったクッキーで、小さな袋に人数分わけられておりソルダート達からすれば天にも昇る嬉しさがあった
そしてそこでふと、この礼を誰が行くのか…という話になったのだ
ベロボーグは普段、自身で作り上げた浮島にいる事が多い
その場所に、自分達が行けるには行けるのだが…
大人数で行ってしまえば仕事の邪魔になるだろうし、何より騒がしくなってしまう
そこで誰が行くか、その事で今こんなにも言い合いがソルダートの目の前で起こっているのだ
とても面倒くさいことこの上ない、ソルダートは静かに思っていた

『…お前等、さっさと決めろ。何時までそうやって言い合っているつもりだ』

「やって、デーゲンはんが折れへんのやもん!!」

「そりゃこっちの台詞だ!!お前が行っても迷惑なだけなんだからさっさと折れろ!!」

「なんやて?!」

言えば言い返す、堂々巡りのようなこの状況にただただ呆れ返るだけで付き合ってられないとソルダートは二人に背を向ける

「……ソルダート、どうするの?」

「二人が争ってる姿を見てると何故か入りたくなるなぁー」

後ろで控えていた二人の天使、プフェルトナーとヴァッフェはソルダートに近付く
ヴァッフェは話の矛先が全く違うが、それにはあまり触れずにプフェルトナーを見て目を細める

『俺様一人で行く』

「……そっか」

「「何だと/なんやて?!」」

後ろで喚いた二人の叫び声がソルダートの背へと投げられる
納得がいかない、その思いがひしひしと伝わってくる
ソルダートは再び何度目かのため息を吐き、振り返り見る
二人の視線が刺さり、それと同様に伝わってくる俺も連れて行けという考えは言葉にされなくとも簡単に読めてしまう
面倒臭い
バッサリと脳内で捨て切り、ソルダートは二人から視線を外し真っ直ぐ扉の方へと向かい歩き出す
しかし、そんな歩みを止めたのは後ろで抗議し合っていた二人であった
メルダーとデーゲンはソルダートのボロボロの翼を掴んだまま、行かせまいとしていた

『おい、離せお前等』

強く掴まれている翼から痛みが走る
先ほどまで言い合っていたのに、何故こんな所で強力してんだ
そう思うものの口に出すことはせず、ソルダートは冷静に二人に翼から手を離せと言葉を投げる

「嫌や、離したらソルダートはん一人でベロボーグ様んところ行くんやろ?!行かせへんで!!」

「そうだ!何時も何時も抜け駆けしやがって!ベロボーグ様を狙ってんのはお前だけじゃねぇんだから!!」

『この馬鹿共が』

苛立ちが滲んだ声色に翼を掴む二人の顔色が少しばかり青ざめる
しかしそれでも離す気はないらしく、掴んだまま口を閉ざしてしまった
奇妙な光景に近くで見ていたプフェルトナーは呑気にも腕を組んだまま関わろうとしなかった
一方ヴァッフェは混ざろうかどうか悩んでいるらしく一人唸っている

お前等助けろよ

ピキリ、と青筋が立つがすぐにため息が吐かれる
そしてどこからとも無く自身の手に出現したランスをしっかりと掴むと、今まで見たこともないようないい笑みを浮かべて二人を見ると

『覚悟しろ』

地を這うような声で宣言し、血の気が引いて今更逃げようとする二人に強力な技をソルダートは容赦なく叩き込むのだった

「あー!自分も混ぜろー!!」

突然始まった乱闘に、ヴァッフェは目を輝かせ自ら死地へと身を投じる

「……なら、ついでに俺も」

そしておまけと言わんばかりにプフェルトナーも片手に武器を持ち混ざってくる
等々全員参加の乱闘になり、その場は戦場へと変わる
武器と武器のぶつかり合う音に、派手な技が飛び交う
そんな事が一時続けられ…
終わる切欠が出来たのは突然の訪問者が訪れたからであった

「えーと…、お取り込み中かな?」

聞き覚えのある声に真っ先に反応したのはソルダートであった
ピタりと動きを止め、声がした方へと視線を移すとそこにいるのは紛れもなく幸福の神ベロボーグであった
それを確認するとソルダートは乱闘を一声で止めさせランスを仕舞うとすぐさまベロボーグの元へと駆け寄り跪く
それはメルダー達も同じで、先ほどまで乱闘していたとは思えないほど冷静に武器をしまい、ソルダート同様に跪く

『お見苦しいところを見せてしまい申し訳ありません。何か御用でしょうか?』

メルダーやデーゲン達の前では使われていなかった敬語でソルダートは言葉を紡ぐ

「いや、そんなに大事な用って訳じゃないんだけどね…。今、時間が空いてるならお菓子を作ってきたから一緒に食べないかなって…」

「ベロボーグ様のお菓子?!」

歓喜するように声を上げたメルダーに、ベロボーグは嬉しそうに微笑む
勿論この申し出を断るつもりはサラサラ無い天使達は喜んで頷くのだった




「あー!デーゲンはん、それワイが狙っとったもんやで!?」

「こういうのは早いもの勝ちなんだよ!!」

「……二人とも、紅茶が零れるよ」

「流石はベロボーグ様の作られたお菓子、美味しい!」

『静かに食えないのか、お前等は…』

ワイワイと、大きなテーブルを囲い上に置かれているお菓子をそれぞれ口へと頬張り食べる
ついでにと用意されたカップに入ってる紅茶をベロボーグは飲みながら、賑やかな今を楽しんでいた

「皆がいてくれて、とても毎日が楽しいよ」

笑みを浮かべたまま告げられた言葉に、天使達は顔を赤らめとても嬉しそうに笑みを浮かべる

『…有難き幸せに存じまする』

とても幸せだと、ソルダートはひっそりと思う
全てはベロボーグ様の為に
自分達はベロボーグ様の為に存在しているのだから

幸福の神様の親衛隊は今日も幸せに浸るのだった

END

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