補充2

□月と太陽
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二人の親はとても完璧を求めていた
ミキストリもしかり、当然トナティウにもそれは求められる
それ故に、とても厳しくあたってくる両親にミキストリは何時も憎悪を持ち、トナティウは悲壮を抱えていた
これは愛ではない
ただ、自分達の私利私欲な感情を息子達に押し付けているだけなのだ
その事をミキストリは十分理解してた
だからこそ、親の元に行きたくないのだ
くだらない事を押し付けられるだけならばくだらないと切り捨ててしまったほうが早い
何よりも自分は親の操り人形などではない
そんなものに縛られて自分自身の人生を無駄にするなど持ってのほかであった
しかしトナティウは違う
無意識に親に愛を求め、認められたいと思ってしまっているのだ
馬鹿みたいにヘラヘラ笑ってただ完璧を求める

(本当に愚弟は馬鹿の一つ覚えだな)

お前みたいな落ちこぼれが完璧になれる訳ない
だからと言って…自分が完璧かと言われればそうでもない
そもそもこの世に完璧などありはしない
そんなものを求めるのは自分達に欠陥がありすぎるから
何とも歪んだ者達か
滑稽で失笑しか出ない
ミキストリはただただ口先だけの両親に失望している
憎悪はもとより尊敬するところなど一つもありはしない
そんな者達に従うつもりはもとより無い

『あー…全くくだらない…全部全部全部…くだらない』

高い塔の上で愚痴を零す
何もかもつまらない世界、全部全部…嵐で葬り去ってやりたい
その前に…邪魔なものは真っ先に殺す
掌に小さな嵐を作り出す
何時頃殺そうか…
その事を考えるととても愉快で笑いが零れる



落ちこぼれ
声が響いた
塔の下を見ればその声を投げかけられた人物は無理に笑みを浮かべ、やめてという言葉を零していた
それは紛れもないミキストリの弟、トナティウであった
朱鷺色の瞳がぶれている
あぁ…本当に愚弟は…
どうでもいいと言うかのように鼻で笑い立ち上がる
立ち去ろう
赤い羽を羽ばたかせ、行こうとした時

「お前って本当に役立たずの落ちこぼれだよなー」

その言葉に、立ち去ろうとした足が止まる
目を向ければ見た事もない絶望した顔でトナティウはその言葉を聞いていた

「…俺は……」

震える声にどれだけの絶望があるのか
どれだけの悲しみがあるのか
ミキストリには分かっていた
今、トナティウの中に生まれた感情も全て
だからこそ

『…チッ』

地を蹴り、トナティウの前へと降り立つ
その事に驚いたのは何もトナティウだけではない、トナティウを落ちこぼれたと呼んでいた者達も目を見開いていた
ミキストリはチラリとその者達を見ると笑みを浮かべ近づく

『なーにやってんの?こんな落ちこぼれをさーよってたかって言葉で責めてさ…何お前等?そんな大人数じゃないとこんな落ちこぼれを苛められないの?あはは、ばっかだなー!笑える話だ!!』

わざと挑発するように言い相手の逆鱗を逆撫でする
相手の顔を見れば分かる
怒りと恥で体を震わせている
あぁ愚かだ
愚かで馬鹿馬鹿しい者達

『お前等何かにこの愚弟を馬鹿に出来る価値なんてない』

分かったならさっさと消えろ
さもなくば嵐でその体八つ裂きにしてやろうか?
楽しそうに笑い両手に嵐を作り上げる
その事にたじろき、後退りをする者達
やはりこの程度かと鼻で笑うとトナティウの手を引きさっさと歩き出す
戸惑い手を引かれているトナティウはミキストリに声をかけられずにいる
それでも何故あんな事をしたのか、その真意をトナティウは知りたかった

「な、何で…馬鹿兄貴が…あんな事するんスか…」

『さぁ?ただ落ちこぼれがさらに惨めな落ちこぼれに見えたから?』

「やっぱり俺馬鹿兄貴の事大嫌いっス」

『俺もお前の事なんて大嫌いだよ』

「…でも…ありがとうっス…」

ポツリと零された言葉
ミキストリはあえてその言葉を聞き流す
そんな感謝の言葉など聞きたくもない
俺はただ

惨めだと思ったから仲介しただけなのだ

そう、それだけなのだ
ミキストリはある程度離れたところに来るとトナティウの手を離しさっさと歩いて行く
気に食わない
気に食わない
本当にどうしてこうも愚弟は落ちこぼれなのか
全く腹立たしい

自分自身が落ちこぼれだったとしても……

その価値をつけるのは自分自身
他人などではない
誰にも決めさせない
信頼できるものがいないとしてもそれはそれでいい
信頼など何もならない
利用できるものさえあればいいのだ


≪何故ミキストリはあぁも落ちこぼれでどうしようもないのか…≫


たまたま聞いたあの言葉
分かっていた
本当はトナティウよりも自身が落ちこぼれである事が
周りの神々は分かっていないだけで、トナティウは太陽神として、戦神として十分その実力があり才能があるのだ
しかし自分自身はどうだろうか?
月の神でありながらも、月の力はあまり使えず、少し使えたとしても体力の消耗が激しく体が重くなる
嵐の力ばかりを頼ってて進歩などしない

『……俺は、落ちこぼれじゃない』

暗示のように、自分を正当化させる為に呟く
自分が落ちこぼれだと感じない為に、その役目を弟へと全て押し付ける
そうでもしなければ、情けなくて、自分自身に絶望して
生きてる事自体が嫌になる
努力しても無駄に終わるなら、それを何かで補わなければいけない
だからミキストリは言葉で誘導するのだ
誰にでも出来る簡単な事を
脳裏に浮かぶ少し嬉しそうに笑った弟の顔

『……あぁ、本当に……腹立たしい』

生まれてすぐに落ちこぼれが決まるなんて
この世は本当に不公平だ
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