補充2

□月と太陽
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騙すほうも悪いが騙されるほうも悪いのだ
それは五分五分であり、覆る事もあれば覆らない事もある
哀れな者達
それは酷く滑稽で浅ましく、そして時には憎悪に身を任せ自分勝手に動く者達
成る程、と乾いたように笑い見下す
自分が手を出さずとも偽の情報はとっくに周りに広がりきっている
これで誰が誰に聞いたのかさえも入り混じり分岐点を勝手に作ってゆく
此処で一つ言うなれば問題を作ったのは自分である
そしてそれを広げ困惑させ、誰が敵か味方か分からない状況を作り上げる
後は放置しておけば勝手に勘違いした者達が仲間割れし死んでゆく
本当によく出来ているものだと眺めているその者はくつりと笑うのだ
目を細め何が面白いのか分からないが無邪気に笑う
幼いその姿にまだまだ子供なのだという事が分かる
しかしやっている事は全く持って子供のやる事ではない
その者の名はミキストリ
月の神とも言われ、戦争と嵐をもたらす神とも言われる事もある
一番多く言われるのは月の神と死神であるが…
ミキストリの性格は酷く残虐的であった
自分に騙された者達の反応を見ては面白がり、次へ次へと広げてゆくのだ
それは波紋のようにあっという間に広がり噂の如くしつこく根を張ってゆく
ミキストリは最初だけ
ただ一言、最初の一言だけなのだ
そのたった一言で周りを惑わすのだ

『あー…愉快だ』

笑い方は無邪気
子供らしい顔つきでありながら何処か大人びている
朱鷺色の瞳が地上を眺めている
桃色にも近いその瞳は不気味に揺らめいている
そんなミキストリを睨みつけるもう一人のもの
ミキストリの弟であるトナティウ
太陽神、戦神でありそれなりの能力の高さを誇っている
そんなトナティウはミキストリの事を嫌っていた
そしてミキストリもトナティウの事を嫌っていた
別に仲良くする必要もない
血が繋がっているとしても仲良しごっこは関係ない
表上仲良くしてたとしてもそれは偽善
二人はそんな事など望んでない

「……趣味悪いっスよ」

吐き捨てるように言いミキストリを睨みつけるトナティウを鼻で笑う

『それで?』

わざと挑発的に返せばトナティウは面白いほど引っかかる
あぁ本当に愚かだ

『愚弟には分からないよ、この面白さ楽しさが』

「…分かりたくもないっス」

ミキストリは基本トナティウの事を名で呼ばない
愚弟と呼び見下す
そしてトナティウはミキストリの事を馬鹿兄貴と呼んでいる
愚兄とも呼んだりする事はあるが…ほとんどは馬鹿兄貴である
この二人の仲の悪さは誰もが知っている
派手な喧嘩こそしないがその空気は何時でも刺々しく兄弟であるにも関らず殺気が溢れているのだ
そんな兄弟に誰もが関りたくないと思うのだが
弟であるトナティウは太陽神
好戦的な性格をしているが基本は誰にでも優しく老若男女誰とでも親しく話す
暖かで人を楽しませる事を無意識にやってのけてしまうトナティウは友人や知人が多く、喋る相手も多くいた
しかしそれに反してミキストリは全く違う
人を騙す事を完全に楽しんでおり、話しかければ嘘なのか真実なのか分からない答えが返ってくる
時には嵐で吹き飛ばされそうになり、酷い時は騙され絶望へと導かれる
そんなミキストリに話しかける者など誰もいなかった
ミキストリは何時も孤立している
ずっと
ずっと

一人だった

太陽と月の兄弟
対の存在は対立している
殺し合いを始めそうなほど殺伐とした仲なのにそれはしない
何故なのか
ミキストリは動く事を面倒と思い、トナティウは乗せられ易い性格ながらも自重はしていた
二人の心の中には何時でも相手を憎む憎悪の気持ちがある
それは顔を合わせるたびに強くなる

『やぁ愚弟』

「……なんスか」

たまたま出会い、トナティウはミキストリを睨みつける
その睨みを軽く流し、ミキストリは何時ものようににひるな笑いを浮かべる
お互い歳の離れていない兄弟
お互い嫌う気持ちは強い
ピリピリとした空気
お互い同じ瞳の色
朱鷺色の瞳、視線が絡み合う

『相変わらず短気だね』

「…それは馬鹿兄貴も一緒っスよ」

『そうかな?』

笑みを浮かべ見る
苛立ってるのはお互い一緒である
ただそれが表情に出てるか出てないか…

「俺本当に馬鹿兄貴の事嫌いっス」

『奇遇だね、俺もお前の事なんて嫌いだよ』

毒の吐きあい
誰もそれを止めはしない
止める事など出来やしない
しかしお互いあるのだ
隠している事が
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