補充2

□時間を司る神
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それぞれ行きかう者達
それぞれの時間を持ち、流れに身を任せる
時間を止める事も進める事も自由自在なその存在
小さな小さな穴の中
暗い暗い穴の中で
その神はひっそりと生きていた

時間を司る神アイオーン

小さな体を震わせ、一人穴の中にいるのにはちゃんとした理由があった
まだ幼いアイオーンは自身の能力が上手く制御できないのだ
その結果周りの時間を進めたり戻したり止めたりとしてしまっていたのだ
何故制御出来ないのかはアイオーン自身分からず
結局天界ではのけ者とされてしまい、こうして結界が貼ってある穴の中でひっそりと一人生きているのだ
少なくともこの結界の中ならばアイオーンの能力が制御できなくとも外には被害はないのだ
ただ一つ
アイオーンが一人だけこの孤独を我慢すればいいだけなのだ
たったそれだけなのだ

『……』

アイオーンは内気であった
そのせいで友人や知人といったものはいなかった
何時でも一人で
ずっと今でも一人なのだ
誰もアイオーンを見ようとしない
誰しも
アイオーンの能力に巻き込まれるのはいやなのだ
当然である
好き好んで時間を自由にされるのは誰だっていやなのだから
もしかしたら永遠に時間を止められる可能性もあるのだ

『………どれくらい…時間が経ったのでしょうか…』

外にあまりにも出ていないアイオーンはどれくらい外の時間が進んだのか分からなかった
アイオーン自身の周りは自分の能力によってもはや本当の時間など分かりやしないのだ
もしかしたら相当時間が経っているかもしれないしそんなに経っていないかもしれない
どちらにせよ外に出なければ分からない事なのだ
だが、アイオーンは此処から出る事はしなかった
自分は要らない神なのだ
だから此処から出る必要もない訳で
アイオーンの中にあるのはもはや諦めだった
まだ幼いにも関わらずアイオーンは自身を放棄していたのだ


しかしそんな時
大きな振動が起き、周りにはってあった結界がとけたのだ
外の風が穴の中に入ってくる
懐かしい匂い
アイオーンは目を細める

『…何か…あったのでしょうか…』

重い腰を浮かせる
今はまだ…能力は制御できるみたいだ
アイオーンは少し考え、穴の外へと出る
輝かしい太陽の光
草木が生き生きとしている
天界でも草木はある
花々も生きている
地上と違うところは空気が綺麗である事と
何時も光で満ち溢れている事だ
神々や天使などが行きかう
死神も時折混じっている
アイオーンは久しく感じる風や自然光に目を閉じる
此処に入る前の記憶は今でもハッキリと覚えている
そして今
何故結界がとけたのかは分からない
しかしそれでも
出れた事への少しばかりの喜びと希望
一歩前へと出る
まだまだ幼いアイオーンにとって外とは未知なる世界である
それが天界であっても同じ事なのだ
色んなものに触れて知って
沢山の事を知りたいのだ
しかし

『…っ』

触れようと手を伸ばした瞬間
アイオーンの周りの時間が突然止まったのだ
先程まで聞こえていた小鳥の囀り、木々の揺れる音
風の靡く音…
全てが静寂に支配された世界
アイオーンは伸ばしていた手を
ゆっくりと引っ込める
やはり自身はいるべき存在じゃないと
改めて思うのだ
止まった時間の中
アイオーンはまた一人歩き出す
時間が止まっても
誰も気にしない場所へ向かう
一人でいればたとえこの能力が制御できなくとも
周りに被害などないのだ
誰もいない場所へ
誰も存在しない場所へ
アイオーンは向かう

『……』

何時か自分を必要としてくれる人が来てくれればいいのにと
思いながら

あの振動はアイオーンをあの場所から出すためだけに発動されたもの
それは一体誰の仕業なのかは
今はまだ闇の中…

アイオーンは一人
生きるのだ



END

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