補充2

□絶望に落ちる死神
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死神で絶望する時はある
しかし知っている死神はとても絶望するようには見えなかった
何故なら超楽観的思考回路の持ち主でお調子者だったからだ
だからこそ
初めてその死神が絶望した時
驚いたのだ
そしてその絶望した死神をとても
見ていられなかった




「…クルーエルさん」

地面へと蹲り投げ出されてしまっている愛用の武器大鎌には血がこびりついていた
そして地面に広がっている血だまり
転がっているのは死神騎士クルーエルと友人だった…もの
その者は既に胴体が真っ二つにされ、息をしていなかった
当然であろう
これだけの血の量に、何よりも体が二つに別れてしまっているのだ
これで生き残れるのは不老不死の者以外有り得はしない
そして見て分かるとおり
これをしたのはクルーエルであろう
上司であるニュートラディに言い渡された事、そして仕事である故に従い、実行したのであろう
実はこの光景を見たのは火柱騎士シウテクトリにとって初めてであった
何時もは違う場所で違う事をしているのだ
いくらクルーエルの同期とはいえ死神の仕事は頼まれた事くらいしかした事はない
そしてそんな死神であるクルーエルなのだが…
これで友人の魂を狩ったのは何人目なのかすら覚えていないらしい
普段クルーエルはその事を話す事はなかった
そしてそれ自体を自慢する事でもない事は分かりきっていた
だが心の何処かでクルーエルなら大丈夫であろうと過信していたのかもしれない
初めてみるクルーエルの姿にシウテクトリは混乱していた
だからこそ声をかけた
大丈夫ではないだろうに
平気ではないだろうに
だがクルーエルは必ず笑顔になって何時ものように返事を返してくれるだろうという勝手な妄想さえもしてしまっていた
だがその勝手な考えは
一瞬にして砕かれる

『……何…?』

顔をあげ、振り返る
そして見たのは
希望を失った瞳を持つ、絶望してしまっているクルーエルの顔だった
ゾワリッとした感覚が全身を駆け巡った
無邪気な笑みも、人を少しこ馬鹿にしたような態度も
明るい声さえも…
まったくなかった
声には感情が篭っていなかった
翠玉色の綺麗な瞳は光をなくし、完全に絶望している
血まみれになっているクルーエルはもうすでに
絶望していた

「…クルーエルさん…、その…その者は…」

確か随分前に話していた友人……

『………殺しちゃった…』

正確には魂を狩った…なのだが
必ずクルーエルは友人の魂を狩った時、殺してしまったと言っていた
狩ったではなく
殺してしまったと…
自ら懺悔するのだ

「…魂を、狩ったんじゃないか…」

『違う、殺したんだ』

頑固にも言うクルーエルにシウテクトリは頭をかかえる
どうすればいいのだろうか
光のない瞳に、どうすれば光が宿るのだろうか
考えるが答えはでない
クルーエルは絶望している
そして何も感じられなくなっている
涙を流すことを忘れてしまっているこの死神には
悲しいという気持ちも
苦しいという気持ちも全部抱え込んでしまうのだ
自分の中に全部閉じ込めてしまうのだ
何度も同じ事を繰り返しているはずだった
何度も何度も友人の魂を狩っているつもりだった
大切なものも大事なものも
全部
自らの手でぶち壊しているはずなのに
それを何度もこりずにまた同じ事を繰り返すのだ

『……俺が、殺した』

殺したんだ
呻くように言葉を吐き出したクルーエルにシウテクトリは言葉を飲み込む
下手に刺激すれば何をするか分からない

「……クルーエル…」

同期としてではなく友人として、クルーエルの名を呼ぶ
近づき、肩に手を置こうとしたが
触れる事はできなかった
何故なら
クルーエルの周りがピリピリとしていたからだ
大鎌を手にしていないから攻撃されないのだろうが…

『………何度目かな…、もう俺…作らないって…決めてたのに、無理だった…』

結局作ってまた自分の手で殺してしまったのだ
学習しない
まったく進歩していない
あぁ…泣けたら…よかったのに

『…もう、死にたい…』

「……」

呻く
零す
クルーエルは誰よりも死を望んでいた
なのに死は遠ざかっていた
何故か?
死神だからである
不老不死になってしまったクルーエルは死ねなかった
どんな事をしても…

『……死にたい』

吐き出される言葉は本音だろう
でなければクルーエルがそんな言葉を吐き出す訳がない
クルーエルは案外脆かった
普段はその部分を上手く隠しているから誰も理解しないのだ

「…クルーエル…、帰ろう 上司が…待ってる」

やっとの事で肩に手を置く
震えているかと思ったらそうでもなかった
クルーエルはノロノロとシウテクトリを見る
そして一瞬にして

笑みを浮かべる

『あぁ、そうだな 帰ろうか』

何時もの調子で話しかけてくるクルーエルに
シウテクトリは鳥肌が立つ
どうしてこんなにも
抱え込むのだろうか

「…あぁ」

もう何も通じない
絶望が積もってゆき山になる
自分自身を絶望で固めてゆき
最後にはどうなるのだろうか…?
そんな事
させない
でも
今の自分は無力で
シウテクトリは拳を強く握り締める
友人一人の絶望さえ取り除けないのだから

『さぁて上司にはちゃんと報告しねぇとなー…怒られるのはいやだしさっさと帰ろうぜ』

「…おう」

大鎌を拾い上げ、先を歩き出す
止める事も何もできない
伸ばした手は何も掴むこともできず空を掴む

「……クルーエル…」

絶望した顔を見たのは初めてだ
シウテクトリは転がされている死体を炎で燃やし灰にする
黒い粉になったそれは空気に流され散り散りになり消える
その光景を何とも儚いものだろうと感じた

先を歩いてゆく絶望した死神は
その絶望を全部隠し込む
何度も絶望する
そして自分自身を壊してゆく

何時から涙は流せなくなったのだろうか
枯れてしまったのだろうか…

『…あー…死にたい』

死ねない体を持った死神
笑みを浮かべるのは自分自身を隠すため
さぁいらないものは捨てようか
訪れない死を願いながら

絶望を

溜め込んでゆくのだった




END

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