補充5

□希望を染める絶望
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魔界の扉が開き世界を闇が閉ざす
その目的は着々と進行していた
世界の半分はすでに魔界の者達によって支配され、闇に覆われている
そんな闇の世界で魔王と君臨するもの…魔星
自分の思い通りに進んでゆく物事をただ玉座に座り眺めていた
その隣に跪く武者が一人…
黒い鎧に身を包み、顔は俯いている為見えない
魔星はその武者へと視線を移す

『…ようやく、わしのものとなったな…』

玉座から立ち上がり、武者へと近づく
顎を手で上げさせ上を向かせる
光のない瞳が魔星を真っ直ぐ見る
迷いのない瞳に希望や勇気などは見出せない
あるのは絶望と闇に染められた感情のみ
そしてこの武者自体もう既に堕ちているのだ
魔王である魔星の元で従順に動く駒の如く
その武者は魔星の手元にいるのだ

『言え、貴様の主は誰だ?』

問われる
武者は迷うことなく名を言う

「魔王魔星様」

細く笑み
満足するかのように目を細める
その口に口付けを落とし、ゆっくりと離れる
上げていた顔を下げ、跪いたままただ黙っている
問われた事への返答以外返さぬようでほぼ静かである
魔星は玉座に座りなおすとただただ闇に染まってゆく世界を嘲笑った
空に日の光など何処にもない
あれほど賑わっていた破悪民我夢の街も全て
魔界の扉が開かれたせいで魔物達の餌食になっていた
それは破悪民我夢の街だけでなく天宮の国全体に広がり…世界全体へと魔物達は広がってゆく
人々から希望は消え、絶望が全てを支配する世界
欲しいものは既に手に入った
次は…この世界だ
魔星は視線を逸らす
扉の近くで控えている4人を真っ直ぐ見る

『早く飛駆鳥を殺せ』

殺意の篭った声に4人は息を飲む
魔星はこの武者さえいればいいと思っていた
当然、それ以外は切り捨てる
だがこの世界にはまだ邪魔者が存在する
その邪魔者が存在している限り、まだ此処にいる4人を切り捨てるのは早いと思っている
駒同然であるが…中々に働きはいい
当然だ
何故ならこの4人が慕っている武者は今魔星の手元に置かれ従順に動いているのだから
そうなると4人は魔星に逆らう事はできない
逆らえばきっとその武者は自分達の前に立ちふさがるからだ
だから今は耐えるしかないのだ
やりたくない事を強制されてでも自分達がその武者一人を置いて逃げる事などできやしない
見捨てる事も一人にする事もしたくないのだ

「勘違いするなよ!オイラ達は…お前なんかの為にやってるんじゃねぇんだからな!!」

噛み付くように言うその武者に魔星を目を細める
瞬間、その武者の体は宙へ浮き上がるのだ
その事に他の三人の武者は目を丸くする
当然、その武者を抱き上げたのは特徴的な大きな翼を持った天国途であった
そんな天国途に一人の武者が殺気立つ
愉快そうに笑い見る天国途は抱き上げている武者の頬を愛おしそうに撫で上げる

「逆らえば待っているのは果てしない程の…」

快楽だぞ?
鳥肌が立つ
武者の顔が青ざめ赤みのかかった瞳に動揺が生まれる
瞬間、何かが天国途の頬を掠める
殺気立っている一人の武者がご自慢の武器を投げたようである
天国途からも多少の殺気が滲み出る
睨み合いになり、その場の空気が重々しくなる

『やめろ』

魔星が静止の声をかける
天国途は魔星を一度見、その武者を解放しその場から消える
駆け寄り、背を撫でる
先ほどの光景は魔星にとって余興の一つにもならなかった
魔星が興味あり、欲しかったものはすぐ近くにいるのだ
それが何よりの幸福であり、充実感があった

『…貴様等だけで力不足なら情けぬな…こやつがいなければ何も出来ない木偶の坊か』

「何だと?!」

食って掛かる武者
売り言葉に買い言葉…
全く持って進歩がない
乗せられやすい性格に三人は肩をすくめ苦笑する
これが彼なのだから仕方ない
だがどちらにせよ飛駆鳥の前に立ちふさがらなければいけないのは事実…
4人の頭の隅で、ある人物の顔が浮かぶ
今この場にいないもう一人の武者……

(どうか、アイツだけでも…飛駆鳥大将軍の元に…)

皆は何も出来ない歯がゆさに
ただただ
この場にいない武者へと思いを託すのだった
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