補充

□生贄の白銀
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部屋の中は広かった
段の上にある玉座に、ドレスを着た少女とその横に立っている一人の騎士
どうやら玉座に座っているのは此処の姫様らしい
闘士や騎士は跪いている
と、同時にそれにつられるようにトラヂェディも跪く
他国の姫様の前で無礼を働く訳にはいかない

「姫、団長、白銀騎士トラヂェディを連れてまいりました」

「よくやった、闘士ワースレス」

表情を変えず言葉を零した団長は闘士…ワースレスを褒める
その言葉に少しばかり顔を緩ませるがすぐにその笑みを消す
騎士は動かない

「…表を上げていいですよ、白銀騎士様」

凛とした声が響く
姫の声は何処か幼さを残している
その声を聞き顔を上げるトラヂェディ
赤い瞳が光に照らされ光る

「初めまして、私は此処…フェリシダド王国の姫です 貴方とお会いするのは初めてですね」

ニコリと無邪気な笑みを零す姫にトラヂェディは何処か不快感を覚える
何か知らないがこの姫を信用してはならないという自分自身の直感

『…初めまして、俺は白銀騎士トラヂェディです ブリティス城に今は仕えています』

なるべく敬語を使い話そうとする
使い慣れていないから結構可笑しくなるが

「噂はかねがね…、貴方に会える事を楽しみにしていました」

『はぁ…』

何故
と、問う前にトラヂェディの足元に何かの魔方陣が現れる
その事に気がついた時にはすでに体には鎖が巻きつかれていた
しかもその鎖は特殊で一筋縄では解けないようだ
舌打ちを零す
これはどういう事なんだ

『…何の真似だ…こりゃあよぉ…』

目を細め、殺気立つ
その殺気に少しばかり騎士とワースレスは押され、一歩後ろへと下がる
しかし姫と団長には何の効果もなかった

「何の真似?言うなれば貴様を生贄とする為に此処に来てもらっただけだが?」

冷たく言い放つ団長を睨みつける
動こうにもこの鎖は硬い
引きちぎれない
多分剣でも切れないだろう

「その術は簡単には解けぬぞ、何せ俺が特別強化して術を組みなおしたものだからな」

騎士が言う
黒曜石のように真っ黒な瞳をトラヂェディに向け、言い放つ
ワースレスは何処か関心しながらその話を聞いている
生贄とは何なのか
そして何故自分なのか
その意図がつかめない

「…姫が望むままに、我等は動く そして白銀騎士である貴様の命を光に捧げれば…“暗”の世界は“外部”を支配する事ができるのだ」

「だからその身を捧げてほしいのです」

『…っ、何を、馬鹿な事を…』

何が生贄だ
そんなの自分勝手すぎる
此方の考えもなしに勝手に進められても困る
大体そんなもの最初からお断りである
自分はそんなものの為に生きているのではない

「まぁまぁトラヂェディ!そう言う訳だからよ!大人しく生贄になってくれよ!!」

ワースレスはトラヂェディに近づきニッコリと笑みを浮かべ言う
その言葉にどれだけトラヂェディが傷ついたかなど分かりやしない
目を細め、ワースレスさえも睨みつける
信じた自分が馬鹿なのは分かる
だが…あんまりではないか

『糞っ…、面倒くせぇな…』

あぁ面倒臭い
もう放棄したい
面倒なのは好きではない
クルーエルもいない
仲間も全部

なら生贄になっても…

…くだらない思考だ
誰が捧げるか
そんなもの糞くらえだ

トラヂェディは鎖を無視して動き出す
ギリギリと鎖が食い込んでくるがそんなのは全部無視だ
どうなろうが知らない
とりあえず
殴る

「…やめておけ、手足がなくなるぞ?」

騎士が忠告してくる
だがそんな事で止める事などはしない
それがトラヂェディであるからだ

「なぁトラヂェディ、悪あがきはやめろよ お前は十分頑張ったって」

ワースレスが陽気に答えてくる
だから
だからなんだと言うのだ?
俺は俺がしたい事をするだけだ

「……あぁ何と素晴らしいのでしょう…、エヴァダンス…、眠らせて神の祭壇へ連れてきてください」

玉座を立ち、カーテンの奥へと姿を消す姫を見送り
騎士団長であり虚空騎士であるエヴァダンスはトラヂェディを真っ直ぐ射抜く
階段を下りていき、正面に立つ

「暫く眠っていろ」

ドスッと音が響く
トラヂェディの腹に一発重いのをいれたのだ
目を見開き、力なく倒れるトラヂェディの体を支える
鎖がジャラッと音をたてる

「ワースレス、インフィアリア 白銀騎士を神への祭壇へ運ぶ、各自準備をして祭壇へ来るように」

魔方陣のようなものは消える
するとトラヂェディを肩に担ぎ部屋を出ていくエヴァダンス
その後ろ姿を見、騎士_インフィアリアはため息を零す
そのため息に少し苦笑しながらワースレスは陽気に鼻歌を歌う

「…闘士」

「ん?何?」

「…裏切るなよ」

「はぁ?!」

侵害だぞ?!
そんな裏切るような性格ひん曲がってねぇぞ?!
ギャンギャンと騒ぐワースレスに半分面倒そうに聞き流しているインフィアリア
そんなワースレスを尻目にさっさと歩き出すインフィアリア
それを少し遅れて騒ぎながら追いかけてくるワースレス

徐々に近づく捧げの時間
生贄の時間
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