補充5

□希望を染める絶望
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その武者は走っていた
太刀を背に背負い、刀を腰に差している
先程から魔物が襲い掛かってきていた
空は黒雲に包まれ、青空も太陽の光さえもない
広がっているのはただただ暗く重々しい雲ばかり
銀色の瞳は先を映す
ただ走っているのだ
襲い掛かってくる魔物達の攻撃を掻い潜りある人物の元へと急ぐ
巨大な魔物がその武者の前に立ちふさがる
刀を構える
地を蹴り、一刀両断する
奇声を発し消えてゆく魔物達を尻目に走り抜ける
早く合流したいのに合流できない
否、その人物が無事なのかも…

『!』

足元がすくわれる
長い手足を自由自在に扱う魔物に宙吊り状態にされてしまう
目の前から牙が迫ってくる
刀を前へと突き出し、貫く
血が武者へと飛び散る
片足に巻きついているそれを斬り、地面へと降り立つ
しかし地面が盛り上がる
ぐらつく地面にバランスを崩し転げる
地面に手を着いた瞬間、その片手に纏わり付く何か
全身を駆け巡る嫌悪感に武者_磊落は体を震わせる

『くっ…、離せ…!』

背にある太刀の柄に手を伸ばし振り回す
一閃される魔物達
零れ落ち地面へと無様にも落ちて消えるのだ
磊落は走る
もう立ち止まってはいけない
振り返ってはいけない
走る
走る
息を切らせ
魔物達が追ってくる
空から
後ろから
地面から
四方八方から迫ってくる魔物達の声が五月蝿い
耳を塞ぐことはしない
してしまえば攻撃される事さえも分からなくなってしまうから

(飛駆鳥大将軍…!)

何処にいるのですか
唯一の手がかりを頼りに此処まで来た
しかし何処へ行っても魔物ばかり…
前に一度垣間見た時のあの雰囲気や気配…
大将軍家の一人なのだという事が人目で分かってしまう
だがそんな飛駆鳥を見て、誰かと重ねてしまうのは何故だろうか…?
磊落は首を傾げる
頭の中で生まれた疑問をすぐに振り払いただ駆けてゆくのだ



磊落はただ一人、魔星の支配から逃れた者の一人でもあった
常に闘覇五人衆と行動を共にしていたが…今回ばかりは一緒に行動をする事は出来なかった
この異常な事態を
そしてその事態の裏側に以外な人物が絡んでいるのだ
その事を飛駆鳥に報告すべくこうしてわずかな手がかりを胸に走っているのだ
烈帝城から外へ出れば魔物達がうろついており、何とかそこを抜け破悪民我夢の街から出る事が出来たのだ
しかし其処から魔物に見つかってしまい
今こうして終われ、連れ戻されかけている訳だが…
この魔物達は何故か自分を殺そうとしない
それは何故なのか
磊落には分からなかったが掴まってあの場所に後戻りしてしまえばきっともう飛駆鳥は勘違いを起こしたまま何かをしてしまうかもしれない
悲劇が起こってからでは遅いのだ
だからこそ、こうやって急いでいるのだ
仲間の希望を背負い
その希望を無駄にする訳にも無碍にする訳にもいかない
ふと、目の前に幼い子供が蹲り泣き叫んでいる
傷だらけである
見上げれば鳥のような魔物が鋭い爪で子供を切り裂こうとしている
磊落は地を蹴り上げる
加速し、子供を守るように腕の中に閉じ込める
背中に衝撃が走る
痛みが全身を駆け巡る
鋭い爪が磊落の背を切り裂いたのだ
拳を作り痛みを堪える
腕の中にいる幼い子供が無事な事に安堵の息を吐く
が、しかし

『え』

雫が零れる
赤い雫が…幼い子供の持っている短刀の刃をつたい零れ落ちていく
横腹に深く突き刺さっているそれに磊落は息を飲む
子供を見れば不気味な笑みを浮かべその場から消える
幻覚
お人好しな磊落の性格を利用した作戦
魔物達に知性があるのか
否、この幻覚はきっと魔物の力ではない
磊落は痛む横腹を片手で押さえる
太刀を支えとしてふらつきながらも一歩一歩前へと進み歩きだす
魔物達は容赦なく迫ってくる
体が突然浮き上がる
背中を巨大な魔物に鷲掴みにされ地面から離れる
出血しているせいか意識がぼんやりとしてくる
視界が霞みだし、体から力が抜けてゆく
それでも自身の武器は落とさないように力の入らない手で何とか掴む

(これじゃ…駄目なの…に……)

鳥の魔物は真っ直ぐ烈帝城へと向かう
血が重力に引かれ落ちてゆく
痛い
痛い…
脳裏に浮かぶ知らぬ武者
磊落は
無意識に
名を呼ぶ



―――――轟天



意識は途切れる
目の前は真っ暗に染まり
その体は力なくたれる
鳥の魔物によって磊落は戻される

真相を知っている唯一の者



「……たく、仕方ねぇな…」

木を蹴り上げる
魔物の後ろへと飛び出すと
真っ直ぐ振り下ろした



To be continued
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