補充

□勘違いから生まれたもの
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確かにそれを斬ったはずだった
しかし
斬れたのはそれの一部でしかなかった
エヴァダンスとインフィアリアは目を見開く
そしてその尻尾に二人は弾き飛ばされる
インフィアリアは壁に背中を強く打ちつけ、エヴァダンスは柱へと突っ込む
ガラガラと崩れ落ち、二人は床へと倒れる
それぞれの武器はそれに取り込まれてゆく
クルーエルはそれをただ見ていた
大鎌を握り締め、舌打ちを零す
あぁあれは…

『化け物』

零す
確かに
あの異様な形状をしたものは化け物という言葉がピッタリと当てはまるだろう
一回り大きくなった化け物にデフェットの形状など残ってなかった
面影さえもない
一体これはどういう事なのか
クルーエルは目を細める

《さぁ!!!始めようじゃないか!!!世界を支配する儀式を!!!》

手らしきところが鋭利な刃物へと形を変える
そしてその切っ先を真っ直ぐ花に捕らわれているトラヂェディへと向ける

『!!』

床を蹴り上げる
そうはさせまいと大鎌を大きく振り上げ、重力に任せるままにおろす
しかしその化け物に刃が通る事はなかった
電気が放出されクルーエルを感電させる
声にならない悲鳴が上がり、床へと叩きつけられる
痺れる体を動かし、すぐに立ち上がる
化け物…デフェットの狙いはトラヂェディである事がクルーエルにだって理解できる
否、それ以外に何があるのだろうか
トラヂェディを殺させはしない
傷つけさせない
その思いだけで立ち上がる

《其処を退け死神!!!》

唸り声を上げるデフェットにクルーエルは鼻で笑う
素直に退けてやるものか

『やだね、トラヂェディには近づけさせない』

チリンッ
鈴が鳴る
また床を蹴る
大鎌を振るう
デフェットは笑いそれを見る
ヒュッと風を斬る音
しかしクルーエルの大鎌はデフェットを斬っていない
何故か空間が捻じ曲がりデフェットの後ろにある柱が一閃される
目を見開く
空間を自由に操れるのか?!
目を細める
ならばと思い空を蹴り、また大鎌を振るう

『死神なめんなよ!!!』

真っ直ぐと迷いのない刃がデフェットの尾を斬る
空間を操るならそれ事斬ればいいだけの話
翠玉色の瞳が一瞬だけ紫色に変わる

《チッ、この…糞死神がぁああああ!!!!》

斬られた尾が再生される
そして斬られたほうの尾は何故か植物と変わりクルーエルを絡めとる

『なっ?!』

両手両足に絡まる植物が綺麗な花を咲かせる
クルーエルの生気を吸い、植物はより大きくなっていく
徐々に体から力が抜けていく感覚にクルーエルは舌打ちを零す
大鎌が手から落ち床へと音を立て転がる
目の前が霞み、暗くなっていく
そんなクルーエルを見て、デフェットは笑うとトラヂェディへと視線を向ける
そして一気にそれを

斬る

赤い血が流れる
床へ広がるその赤い液体をただただ見ていた

《…!!!お前はっ、エヴァダンス?!》

口から血が零れ落ちる
鋭い目つきでデフェットを睨みつける
たったそれだけなのにデフェットの体は動かなくなる
そしてその下に魔方陣があらわれる
青白く光るそれはでデフェットの巨大な体を包み込み青いリボンがギリギリと強く締め付けてくる
まるで毛糸玉のようにされたデフェットを見て、インフィアリアは一本の針を投げる
瞬間
それは光を増し、部屋全体を覆い込む
それぞれ目を瞑る
あまりにも強い光に涙が滲む

《糞…糞!!くそぉおおぉおおぉぉぉぉお!!!!!》

悲痛な声が掠れてゆく
光に飲まれデフェットの大きな体は元のMSの姿へと戻される
魔方陣が消え、インフィアリアは床へと崩れ落ちる
力を使い切ってしまったらしい
エヴァダンスはデフェットへと近づく
嘘だと言いたげなその顔にエヴァダンスは思いっきり重い拳を叩きつける
壁へと吹き飛び、床へと倒れる

「この…馬鹿野郎が!!!」

何故こんな事でしかお前は…!!!
ズカズカとまた近づき、首元を掴み無理矢理立たせる
赤く腫れている頬が痛々しい
しかしエヴァダンスはそれを無視し、また大声で言うのだ

「何故言わなかった!!こうなるまで、何故一人で抱えてきた?!」

何故俺達を頼ってくれなかったんだ!!!
涙が滲んでいる
デフェットは
その言葉をただ呆然と聞いていた
エヴァダンスが何を言っているのか
何故そんな事を言っているのか
まったく分からないのだ
ただ怒っている
それだけしかデフェットは分からなかった

「俺等がお前をそうさせたのならば土下座でも何でもして謝った!!何故…何故!!もっと早く…言ってくれなかった…!」

涙声になりつつ言うエヴァダンスにデフェットは目を見開く
何で
何で?

「……だって、お前等は俺の事を馬鹿にして…」

「違う!馬鹿にした事など…一度もなかった!!ずっとずっと…俺等はお前の事を心配してきた…!!」

「!」

心配してた…?お前等が?俺の事を?
何で
何で…?

「デフェット、お前は俺等の…大切な仲間だから…」

「…たい…せつな…仲間…?」

信じられないというかのように、エヴァダンスを見るデフェット
涙で情けない顔をしているエヴァダンスに騎士団長の威厳などなかった
デフェットは此処で初めて
自分は背を背けていただけなのだと
分かった

『…何とか、なったのか?』

植物から解放され、大鎌を拾い上げ支えにする
トラヂェディへと近づき、触れる
鼓動が一定感覚で脈を打っている
白銀の光が何処か神々しい

『さて…これはどうしたものか…』

引きずり出せばいいのかな?
トラヂェディの肩を掴み、引っ張ろうとする
しかし離れない
花はトラヂェディをしっかりと取り込んでいる
クルーエルは眉間にしわを寄せ手に力を入れる
傷つかないように気を使い
花の中から引き離そうとする

『っ、根がトラヂェディの体にまではってるのかよ…!』

ナイフを取り出し根を切っていく
しかしこの根は再生が早く切っても切っても伸びてくる
そしてさらにトラヂェディを取り込もうと根を伸ばす
クルーエルは苛々する気持ちを抑え切ってゆく
しかしそれもすぐに限界がくる

『だー!!!!早くトラヂェディを解放しろ!!!!』

根を燃やす
そして一瞬の隙をついてトラヂェディをその中から引きずり出す
力の入っていないトラヂェディの体を支え、花から離れる
根がトラヂェディを取り返そうと伸びてくるが、それを阻止するかのように燃やす
トラヂェディが花から離れると同時に天へと伸びていた光は無くなる
と、同時に天から逆に黒い光がその花を照らす
瞬間
花は枯れてゆく

『…枯れた?何で…』

ピシリッ
小さな音がする
その音はクルーエルだけが聞こえた本当に些細な音
クルーエルは音の発生源を見る
枯れた花がある祭壇
そしてそこに走る小さな罅

『お前等逃げるぞ!!!』

咄嗟に叫ぶ
エヴァダンスはバッとインフィアリアとワースレスの体を担ぎ上げ、デフェットの手を掴み走りだす
自身も怪我をしているにも関らず走るのだ
デフェットは状況が分かってないがただエヴァダンスに引っ張られ走る
クルーエルはトラヂェディを背負い走り出す
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