補充

□堕ちてゆく騎士
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火の手が上がっていた
何処を見ても
それは遥か遠くまで続いていて
何処だろうと辺りを見回す
フワフワとした感覚で、歩き続け
たどり着いたのは…ブリティス城
火の手は此処から上がっていたらしい
あぁ…いやだ
あの日の事を思い出してしまうから

あの日
此処で

親父が死んだ日の事を…

キングガンダム二世…もとい皇を守って父であるヒューチャは此処、ブリティス城で息を引き取った
その出来事はあっと言う間で…
何も出来ないまま
死に行く父を目の前にし、無力なまま
最期を迎えたのだった

あの時
あの場所に
皇さえいなければ、もしかしたらヒューチャは死んでいなかったかもしれない
もしかしたら隣で今でもずっと笑っていたかもしれない
馬鹿な事をして鉄拳を受けたり
修行の手伝いをしてくれたり
何気ない会話や
いままでどれだけ経験を積んだか話し合ったり……
そんな事など有り得はしないのに
もしあの場所に皇がいなかったとしてもヒューチャは少なからずザビロニアの兵士達によって命を落としたかもしれない
だが…だが!
あんなのはあんまりではないか!!
何度も
何度も何度も
あの時、皇を殺してやりたかったか!
どれほど憎んだか!!

目を細め、その場所を眺める
今では復讐者としてではなく、ブリティス城に仕えている騎士として生きている
憎いという気持ちがなくなったと言えば嘘になるが…
それでも皇…キングガンダム二世にこの命を捧げていいとまで思った
其処まで何故心変わりをしたのか、まだ分からないが
それでもこの選択は間違いではないと思っているのだ
炎がパチリッと弾ける
ユラユラと揺らめき、風もないのにどんどんその炎は大きく揺れる
それをただ人事のように眺めてはいるが
内心、心や考えなど荒れまくっていた

あぁすればよかった
こうすればよかった
思う事は後悔ばかり
今という幸せを持ちながら、後悔が共についてくるのだ
父の死を受け入れていない訳ではない
今でもキングガンダム二世が憎い訳でもない
ただただ、考えはマイナスの方へと向いてしまうのだ
面倒臭いと投げ捨てられればどれほど楽か
しかしそれが出来ないのは何故だろうか?
理由はない
思っているのだ
考えても答えが出ないのは当然だ

『…あぁ糞』

愚痴が零れる
痛い
痛い痛い
此処に一人だ
寂しい
苦しい
怖い
誰か
助けて

『違い、俺は…一人じゃ…』

そう一人ではない
だが今“此処”では独りなのだ
嫌いである孤独なのだ
周りを見れば暗闇である
炎は何時しか消えていた

《いいや、お前は一人だ》

声がした
自分と同じ声が
振り返れば
見えたのは
自分自身で
あれはどう見ても…
復讐者だった時の自分

《復讐者でありながら、お前は復讐するはずだった事も全部自分の中に封じ込めた》

『違う…』

《何が仲間だ、所詮その場しのぎの関係じゃねぇか、くだらねぇ 何時かは絶対裏切られるのに何をお前は期待した?》

『ウルセェ…』

《何故殺さなかった?何故だ…何故憎いと思った相手に仕えている?》

『やめろ…』

《何故、お前はそんなにも》

『やめろ!!!』

何も聞きたくない
拒絶
いらない
そんな言葉など聞きたくない
ふざけている訳でも背を背けている訳でもない
…はず

《…哀れな、お前は俺、俺はお前…落ちぶれた白銀騎士トラヂェディ…》

なぁ
何故お前はそんなにも目を背ける?

ズキズキと頭が痛む
目の前が霞む
痛い苦しい悲しい
ズルリッと
足元がゆるくなる
まるでぬかるみのように
闇に
飲まれる

『っ?!な、や…やめ…っ』

抗っても足元から徐々に飲み込まれてゆく
手を伸ばしても誰も差し伸べてくれない
立っている復讐者であるトラヂェディはただ無表情に見ていた

《もう一度堕ちろ、それがお前にとって一番の幸せなのだ》

だから大人しく
その暗闇に身を任せてしまえ

『や…だ……クルーエル…、み、ん……な』

視界が暗くなる
何も見えない

もう何も



見えない




To be continued

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