連載

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翌日のことである。ポケモンセンターの外に手、サトシとシンジ以外の全員が勢ぞろいしていた。


「遅いわねー、あの2人」
「準備に手間取っているのかしら?」
「いや、昨日みたいになっているんじゃないかな・・・」


心配そうなカベルネに、不思議そうにつぶやくラングレー。
デントが眉を下げて言った言葉に、シューティーたちはああ、とうなずいた。

昨日みたいな、というのは、昨日シンジがカントーに帰ることを告げた後、サトシがシンジにくっついて離れなかったことである。
いつもなら少しさみしそうな顔をしながらもすぐに笑顔になって、また会おう、と言って別れるだろう。
婚約者だろうが、そんなあっさり、と思わないでもないが、2人はそんなにべたべたとひっついたりしないタイプである。今回が異常なのだ。
それだけサトシが弱っていたことがうかがえ、シンジも甘やかしていたのだ。
普段ならからかうカスミも、今回ばかりは見逃していた。


「やっぱり、恋人と別れるのは寂しいのかしら」
「しばらく会っていなかったようだし、そのせいかもね」


普段のサトシなら、ライバルの進む道を引きとめたらいしないのだが、そんなサトシを彼らは知らない。
このことを言ってしまえば、勘のいいトレーナーには気づかれてしまうので、カスミは黙ってサトシたちを待った。


「ねぇ、2人は一緒に旅はできないの?」
「私はジムがあるから・・・」


アイリスの申し出に、カスミは眉を下げる。
返ってきた言葉にアイリスは眼を丸くした。


「えっ!?カスミってジムリーダーだったの!?」
「ああ、アイリスはいなかったわね。私はカントーのハナダジム・ジムリーダーをしているの。だから早く帰らないと」
「そっかぁ・・・」


ジムリーダーの仕事があるため、旅を出来ないと言われれば、アイリスは何も言えない。
デントのように複数でジムを回しているのなら別だが、普通は1人である。
無理を言って、いつ終わるかわからない旅についてきてもらうわけにはいかない。


「なら、シンジは?シンジはトレーナーでしょう?」
「そうなんだけど・・・。どうなのかしら。一応、私と一緒に帰るって言ってたけど・・・。何でも、いったんシンオウの実家に戻って次の目標を決めるつもりだって」
「そっか・・・。シンジにもシンジの旅があるのよね・・・」


沈黙が落ちる。
彼らはサトシが心配なのだ。
彼らは別に好きでサトシを傷つけていたわけではない。
彼らにも彼らなりの考えがあって、それを主張していただけだ。
その結果、サトシが傷ついていたのだけれど。

どんよりとした空気に、カスミが眉を下げる。
サトシったら早く来なさいよ、と心の中で悪態をつく。


「すまん、遅れた」


サトシとシンジはポケモンセンターを飛び出してきた。
2人はしっかりと手をつなぎ、デントの予想が当たっていたことが判明した。


「別にいいわよ。出発までには時間があるし」


出発、という言葉に、サトシが手に力を込める。
シンジが珍しく困ったように眉を下げた。
カスミが仕方ないなーと苦笑した。


「まだ時間あるんだから、存分にシンジを堪能しときなさいよ」
「えっ」
「うん、そうする」
「えっ!?」


サトシに抱きつかれて、シンジは困ったような、困惑したような表情になる。
恥ずかしいとか、そんなので困惑しているのではなく、何が起こっているのかわかっていないのか、この状況についていけないのか。シンジの周りには疑問符が浮かんでいる。


「サトシったらそんなにシンジと離れたくないんなら、シンジに一緒に旅しようってお願いすればいいのに」
「それが出来たらいいんだけどなー」


アイリスの言葉にサトシが苦笑する。
サトシはシンジの肩口に顔を埋めた。


「どうして?」
「シンジ、ジンダイさんに挑戦中だから」
「ジンダイさん?」
「シンジはカントーにあるバトル施設に挑戦しているの。でも、そのことなら心配いらないわよ、ねぇ?」
「え?じゃあ・・・」


カスミの言葉にサトシが顔を上げる。
シンジがフロンティアシンボルを取り出し、サトシに見せた。


「じゃあ・・・!」


サトシの目が輝く。
けれども、シンジは困ったように眉を下げた。


「別にお前と旅をするのは構わないんだ。しかし・・・私はだれかと旅をした経験がほとんどない。だから・・・」
「そんなの、一緒に旅をしていく中で慣れたらいいじゃない」


シンジはずっと1人旅を続けていた。
誰かと一緒に旅をすることへの不安と負担は大きい。
カスミとの2人旅はほんの数日という短い間だけ。
何かしらの問題が出る前に終わった。
カスミの言うようにゆっくり慣れていけばいいが、環境の変化は予想外の影響を及ぼす。


「私との2人旅では問題なかったんだし、残り少ないイッシュの旅よ?何よりサトシがいるんだし、大丈夫よ」
「そんな簡単に・・・」
「料理だって、すっごく美味しかったし、心配いらないわよ」


そう言ってカスミはコロコロと笑う。
サトシがいるという言葉に若干ぐらつくが、彼に負担をかけることになるのは避けたい。
彼の傷はまだ癒えていない。


「カスミ!シンジの手料理食べたのか!?」
「まぁね〜」
「なにそれずるい!」
「あんたはこれから幾らでも作ってもらえるでしょ?」


そこに食いつくのかよ!とシンジが想ったが、口には出さなかった。
何故だかサトシが心底悔しそうにしていたものだから、口をはさめなかったともいう。


「いや・・・料理は苦手なんだが・・・」
「あの味でそんなこと本気で言ってるんなら、あんたは本当に料理苦手な子たちに喧嘩売ってることになるわよ」


カスミの据わった目にシンジが目をそらす。
カスミが起こると怖いということは、この数日でいやというほど知った。
痛い目は見たくない。


「そんなに自信がないなら、サトシたちと旅をしてたしかめてもらえばいいじゃない、ねぇ?」


カスミがサトシに笑いかける。
サトシがぶんぶんと首を縦に振り、大きくうなずく。
キラキラと期待に満ちた目に、シンジは言葉を詰まらせた。


「何事も経験だよ、シンジ」
「大丈夫よ。私たちにだってできたことなんだから」


デントとアイリスがシンジの肩に手を置いた。
自分を歓迎するその笑みに、シンジはゆっくりと首を縦に振った。


「「「やったぁ!!!」」」


サトシだけでなく、デントたちやベルたちまで手を上げて喜ぶ。
それに驚いていたら、カスミにぽんと、肩をたたかれた。


「あんたとサトシなら大丈夫よ」
「カスミ・・・」
「何かあっても、話くらいは聞いてあげるから、いつでも連絡して」


ぽんぽんと髪をなでられ、目を瞬かせる。
そんなシンジにくすりと笑って、カスミは言った。


「私はサトシと、サトシの選んだあんたの味方だから」
「――――・・・っ」


カスミは慈愛に満ちた目でシンジを見つめた。
その目はどこか兄に似ていて、気恥ずかしくなる。
サトシがカスミを姉と慕う理由がわかった気がした。


「じゃあ私はそろそろ行くわね」
「え?もう行くのか?」
「出発に間に合わないからね」
「そっか・・・。イッシュまで来てくれてありがとな!」
「別にいーわよ。ただ、もうこんな面倒なことさせないでよね」
「わかってるよ」
「ならいいんだけど」


カスミがサトシに別れを告げる。
サトシはいともたやすく告げられた別れに目を丸くした。
けれどもすぐに笑った。


「じゃあ、またね」
「おう!」


カスミはサトシだけでなく、シンジやシューティーたちにも手を振った。
それからは一度も振り返らずに街の喧騒の中に消えていった。


「さて、」


ケニヤンたちが自分の荷物を背負い始める。
彼らはカスミとシンジの(結果的にはカスミの)見送りに残っていただけなのだ。
それが終わり、彼らも旅の続きに向かう。


「じゃあ僕たちも行くよ」
「またね、みんな!」
「次にあったらまたバトルしようなー!」


みんなもバラバラの方へと去っていく。
寂しいけれど、旅に別れはつきものだ。
その背中が見えなくなるまで手を振って、サトシたちも荷物を背負った。


「それじゃあ僕たちも行こうか」
「そうね!」
「今はどこを目指しているんだ?」
「白の遺跡だよ。そこまで行ったらイッシュをすべて回ったことになるんだ」
「そうか。そのあとは?」
「う〜ん、まだ決めてない。そのままカントーに帰るかどうかはこれからゆっくり決めていこうと思ってるよ」
「なるほどな」


デントやサトシたちが嬉しそうにシンジの疑問に答えていく。
何故そんなに嬉しそうなのか、とアイリスを見るが、彼女も嬉しそうに笑っている。


「なんだか、仲間が増えると、新しい冒険が始まるって感じがするねぇ」
「たしかに!」
「新しい冒険かぁ!」


楽しそうにシンジの周りに集まるサトシたちにシンジが目を瞬かせる。
それにおかしそうに笑って、サトシが言った。


「よーし!新しい冒険に出発だー!」
「「おー!」」


拳を突き上げて走り出すサトシとデントにアイリス。
それに面食らい、シンジが出遅れる。


「ちょ、おい、待て!」


我に返り、置いていかれていることに気づいて、シンジも走りだした。
シンジを仲間に加えて、サトシたちの旅は、新しい冒険の一歩を踏み出したのだった。












ベストウイッシュ!よい旅を!





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