中編

□月の光に照らされて
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サトシがシンジに頬をすり寄せる。
ピカチュウもシンジの首筋に抱きつき、すりすりと額をすりつけていた。
シンジはくすぐったそうに眼を細めていた。


「シンジ、久しぶりだな!」
「今朝会ったばかりだろう?」
「生身では久しぶりじゃん!」
「イッシュからそう何日もたってないはずだが、」
「その間にいろんなことが起きたんだよ!だから久しぶりに感じるの!」
「そうか」


姉弟のような2人のじゃれあいに、シトロンとユリーカがぽかんと口をあけて2人を見つめた。
サトシは確かに子供っぽいところもあるが、自分たちを引っ張って行ってくれる頼れる兄的存在、という印象が強い。あんなふうに甘えるサトシは初めてみた。
それはピカチュウも同様だ。ピカチュウがサトシ以外に擦り寄るなど、ほとんどない。
けれどもセレナは、別のことの衝撃を受けていた。


「(サトシの会いたい人があんなの子だなんて聞いてない!!!)」


甘えるようにシンジに擦り寄るサトシに、セレナが嫉妬の炎を燃やす。
ポケモンとのスキンシップは別だが、サトシはあまりべたべたと接触はしない。
ハイタッチくらいなら普通にするが、抱きしめるなんて普段のサトシからは考えられない。それも、女の子を相手に。


「(一体、誰なのよ、その子〜!!!)」


わなわなと嫉妬に震えるセレナには気付かず、サトシとシンジは会話をつづけていた。
楽しげに会話を続けていた2人の会話が、シンジの沈黙によって止まる。
シンジはサトシを見上げていた。


「・・・お前、背が伸びたんじゃないか?」
「え?そうかなぁ?」
「・・・なんかむかつくな」
「シンジは女の子なんだから仕方ないだろ?」
「それはそうなんだがな・・・」


拗ねたような物言いをしているが、それに反してシンジの顔はどこか嬉しそうだった。
自分の成長を祝ってくれるような優しい表情に、サトシが嬉しくなって再度シンジに抱きついた。
それに、ついにセレナの何かがブチ切れた。


「サトシ!!!」


突然怒鳴ったセレナに、サトシが驚いて彼女を振り返った。
眼を白黒させているサトシを見て、セレナは慌てて口元を押さえた。
そして、取り繕うように笑った。


「そ、その子が会いたかった子?」
「そう!俺のライバルのシンジ!」
「そ、そうなんだ・・・」


引き攣った笑みを浮かべて、セレナがうなずいた。


「初めまして!私、ユリーカ!この子はデデンネ!」
「僕はシトロンです」
「わ、私はセレナ・・・」
「シンオウから来たシンジだ」


自己紹介を手短にすませ、ユリーカがはいはい!と手を上げる。


「シンジさんはカロスを旅しているの?」
「シンジでいい。リーグ出場を目的にジム戦めぐりをしている」
「サトシと一緒!」
「そうだな」


嬉しそうに笑うユリーカに、シンジが微笑んだ。
ジム戦、という言葉が出てか、サトシがぱっとシンジを振り向いた。


「そうだ、シンジ!シンジはバッジいくつゲットしたんだ?」
「2つだ。お前は?」
「俺も2つ!次はどこのジムに向かうの?」
「シャラジムを目指しているが」
「俺もなんだ!」


一緒だな!と笑うサトシに、シンジが暖かい笑みを向ける。
優しいシンジの笑みに、サトシが照れたのか、はにかんだような表情を見せた。


「あ!ならよかったら一緒に行きませんか?サトシとライバルと言うことは、サトシとバトルしてるんでしょう?参考までに聞きたいです!」
「私もシンジのポケモンみたーい!」
「それいいな!シンジ!シャラジムまで一緒に行こうぜ!」
「私は構わないが・・・」


シトロンとユリーカ、サトシが嬉しそうにシンジにシャラジムまでの同行を求める。
シンジは困ったようにセレナを見た。
彼女1人だけが、浮かない顔をしていたからだ。
自分の方に視線がよこされたことにセレナは驚いたような表情をしていた。


「えっ!?あ、えっと・・・私もいいよ!私もサトシの話聞きたいし・・・」
「なら決まりだな!」


セレナの同意を得られたことで一同が沸き立つ。
特にサトシが嬉しそうに笑った。


「楽しい旅になりそうだな、ピカチュウ!」
「ぴかっちゅー!」





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