She Wolf(長編)
□過去
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ウォール・ローゼ内 兵舎会議室
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「フィオナの様子は、どうじゃ?」
会議を終え、人が出払うのを待ってピクシスが声を掛けてきた。
「今は、リヴァイの要望で彼の班にいます。」
エルヴィンが短く答える。
「そうか、リヴァイ班か・・・。」
ピクシスは、小さく復唱すると
ゆっくりと歩き窓のそばに寄った。
窓の外を見つめる顔からは、感情は読み取れない。
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「ジョン・ロヴォフ・・・聞き覚えは?」
ピクシスがこちらをチラリと見て、口を開いた。
「確か、貴族院の権力者の一人だったかと・・」
エルヴィンは記憶をたどる。
「そうじゃ、あの中にあって珍しく調査兵団や駐屯兵団にも理解を示す、貴重な人間じゃった。」
「・・・が、兄の権力を狙う弟のニコライ・ロヴォフの企てによって、「異端の罪」を背負わされ、議会を追放されたのち、殺害された。」
「ジョン・ロヴォフ・・・彼がフィオナの父親じゃ。」
「母親は、彼女が小さな時に亡くなっていたが、もう一人兄がおった。」
「当時憲兵団に所属していたその兄も、ニコライの陰謀によって・・・
ウォール・マリア奪還の指揮を取ると名目の元
民衆を率いて巨人の手に落ちた。」
「食糧危機などによる混乱の中、当時9歳のフィオナは壁外に逃げ延びたが、
子供一人、あの世界を生き抜くのには過酷な日々が続いたようじゃった。」
「ワシが、12歳になったあの子を見つけた時には・・・」
ピクシスは一度話を切り、慎重に言葉を選ぶように話を続けた。
「あの子は、本人も望まなかったであろう場所に身を置き、心を閉ざし生きておった。」
「ワシは、あの子を引き取り亡き母の性へと名前を変え
新しく生まれ変わらせた。」
「が、、、心は閉ざされたままじゃ・・。」
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「一年を過ぎた頃、訓練兵へと志願を申し出た。」
あれが、初めて見せたあの子の自我じゃった
「ワシは、訓練兵卒業後、4年をワシの元で働くことを条件にあの子の願いを聞き入れた。」
「優秀な成績を収めたあの子が、憲兵団に入らないのを不思議がる奴もおったようじゃが、、、
壁の中へと戻す事にも、不安があっての・・・わしにとって孫のような存在なんじゃよ。」
と、ピクシスがこっちを見て笑った。
「そして、約束の4年が過ぎ・・・」
「あの子は、調査兵団への入団を申し出た。」
「心の闇に本人も苦しんでおる、それゆえの彼女の考えかと思ってのう・・・。」
「しかし、ワシの望む光ある未来と
あの子の考える未来は少し違うかもしれん・・・。」
ピクシスは目を細める。
「このまま、心を閉ざしたまま終わってほしくないと思うのじゃよ、、、老い先短い年よりのお節介じゃがの・・・。」
ピクシスは、自分の手を見つめて小さく笑った。
そして、こちらに向き直ると
この話は、聞かなかった事にしてくれていい。
「それでは、のう・・・。」
と、いつものようなのんびりとした口調でいうとピクシスは去って行った。
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ピクシスの話を胸の奥にしまいながら
(リヴァイの元に置いたことが、吉と出るか、凶と出るか・・・)
そんなことを考え、エルヴィンもまた、部屋を去った。