She Wolf(長編)

□壁外調査
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閉ざされていた、壁が開く。

鐘の音が晴れた空に響き、ゆっくりと凶暴な世界が口を開けてゆく。

(いよいよだ。)

前列では、ハンジ分隊長が兵長や他の分隊長に
声を掛けているのが見える。

エルヴィン団長の掛け声の元、総員が一気に馬を加速させる。

モブリットさんから

「決してハンジ分隊長の暴走に巻き込まれないよう。」

と、何度も念を押されていた。

彼女は、巨人の捕獲を自分の大きな役割として考えているようだけれど・・・
エルヴィン団長は、兵士不足を理由に拒否を続けているらしい。

兵站拠点の設置する事が、この遠征の大きな目的だからだ。
それですら、大勢の犠牲が生まれる。

そこのところはハンジ分隊長も(一応は)理解しているらしく私にも

「とにかく、初めての壁外は生きて帰ってくることが一番の目標だからさ。」

と、そんな言葉をかけてくれた。


半数近くの死。それが現実の世界。

死の直前には・・・


「私は死にたくない。」


と、感じるんだろうか。

旧市街を出るまでに、何体かの巨人に出会う。
援護部隊の応戦に漏れた巨人を、精鋭部隊が次々と倒してゆく。

私は、主に「おとり」だ。
体が小さく、小回りが利く・・・
ハンジ分隊長や、その他の精鋭兵の位置と巨人の位置を確認しながら
起動装置の使い易い場所へと巨人を引き付ける。
足の速い巨人には、スチールでかかとに切り付ける。
鈍い衝撃に、スチールのグリップを握りなおす。
私の役割は、とどめを刺す事ではない。

効率的に、早く、もっと、、、。

自分の体が、重力に逆らってスピードを増していく。
このままスピードを上げ続けたら。体がバラバラになりそうだ・・・。


「ああ、気持ちがいい。」


緊迫する空間にそぐわない言葉が、口から洩れた。


**********




「うわあああー、たすけてくれ!!!」

誰かの叫び声に、ハッと我に返る。
前方で、巨人の手中に仲間の姿が見えた。
夢中で、アンカーを飛ばす。
ワイヤーを引き付ける勢いに乗って回転をしながら巨人に突っ込む。
耳元で鳴っていた風の音が、急に聞こえなくなった。
死を覚悟した仲間と一瞬目があったように感じた。

(・・・・・)

私は、巨人の手首を切り落とした。

後方から来た、ハンジ分隊長が巨人の後頭部をかすめ飛んだ次の瞬間
巨人の体が、ずううん。と音を立ててゆっくりと沈んだ。

「フィオナ、よくやった。」
分隊長から声が飛ぶ。
私は、小さく頷く。

合図で、一度近くの民家の屋根の上に集まる。
鋭い口笛で、馬が集まってきた。

「大方、片付いたね。」
「そうだな、これで前進できそうだ。」

分隊長たちの声を聞きながら、後ろを振り返る。
さっきまで私たちの脅威だった存在が、蒸気を上げて地面に倒れていた。
フラッシュバックのように、死を覚悟した青ざめた仲間の顔が頭に浮かんだ。

(彼は、助かったのだろうか)

視線を感じて、前方に顔を戻すとリヴァイ兵長と目があった。
私はゆっくりと、目をそらせると自分の馬に飛び乗った。
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