She Wolf(長編)

□近づく
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「俺が来なかったら、どうするつもりだった?」

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私は、どうするつもりだったんだろう?
あのまま、あそこに立ち尽くしていた?
誰かが気づいてくれると思っていたのだろうか?

あの問いに、あの時答える事は出来なかったけれど
伸ばされた手を握ったのは、確かだった。




(私は、彼を信じているの?)




何度も繰り返した問いを、自分で振り払うように小さく頭を振ると
小さな包みを手に、そっと部屋を出た。


ハンジ分隊長の


「ああ見えて、リヴァイなりに心配していたと思う。もう一度、お礼を言っておきなさい。」


そんな言葉を聞いて、ペトラに相談して紅茶を購入したのだけれど・・・・




暗い廊下にコツコツと、ブーツのかかとが鳴る。
上階の一つのドアの前で呼吸を小さく整えると
小さくノックをした。


「フィオナ・ホワイトです。」



自分の低い押し殺したような声が、小さく響く。



「開いている。」




リヴァイ兵長の声が、ドア越し聞こえた。

小さく敬礼をして部屋に入った。
兵長はチラッとこっちを見ると、小さく頷く。
敬礼を解いて、口を開いた。




「先日は、ご迷惑をおかけしました。」



頭を下げる。


「・・ああ・・・。」



彼のその声で頭を上げると、部屋の奥の机から
私を見ている兵長と目が合った。

視線を逸らさず、机に近づくと



「少しですが、これを・・・。」



と、手に持った紅茶の包みを差し出した。

彼はゆっくりと、椅子から立ち上がると包みを手に取り、ラベルを見る。
そして、何も言わずに私の横を通りすぎ、隣の部屋に姿を消した。

ドア越しにカチャカチャと食器の音が聞こえる。




「お前も、飲んでいけ。」





どうやら壁越しに、私に話しかけているらしい・・・


(多分、あそこが彼の私室なんだろうな)




と、ぼんやり考える。





彼は、2つのカップを手に再び姿を現すと、少し手を伸ばしてカップを私に近い机の隅に置く。



「頂きます。」




そう言って、置かれたカップを手に
兵長と距離を取るために、開いた窓のそばへと移動する。

彼は、そんな私を少し目で追った後、無言で椅子に腰を掛けた。




「・・・・・。」

(まただ・・・。この沈黙は苦手だ。)



そう思い、ゆっくり息を吐く。
窓枠によりかかり、湯気の上がるカップを手で包んで、開いた窓から外を見る。
空には、たくさんの星が光っている。

「いい香りだ。」
リヴァイ兵長の声が小さく響いた。

私は、鼻先をカップに寄せて、香りを確かめてから
「そうですね・・・」
と、小さく頷く。

*******


なんとか沈黙を破って、部屋を出るきっかけを探そうと

「この間は、ありがとうございました。」

と、この部屋を訪れた理由を確かめるように姿勢を直し、お礼を繰り返す。

「ああ、、、」

兵長は、さほど興味が無いように、小さく唸るとまたカップを口に付ける。
髪が目にかかっていて表情は見えないけれど
いつものように無表情なのだろう。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

(また、空振りだ。どうしたらいいんだろう。)

なすすべもなく、私はまた、兵長から窓の外に目を移す。
階下では、見張りの兵だけが静かに佇んでいる。
どこかの部屋から、小さな笑い声が聞こえた。

「静か、、、ですね。」

私の独り言のような言葉に返事はない。
それでも、自分のカップを置いて、私のいる窓際に近づいてくる兵長の気配を感じた。
彼は向き合うよう立つと、窓から階下を見た。

「・・・・・」

私は、

「静か、、、ですね。」

と、もう一度つぶやいた。

「・・・・・」
「・・・・・」


沈黙の中、私のカップから上がる湯気が、夜風でゆっくり揺れた。


*********


そっと、首筋をなでる指を感じて、兵長の方をゆっくりと向き直る。
彼の眼は、自分の指先を見ているのだろう・・・視線は絡まない。


彼の長い指が、私の首筋を往復して、ゆっくりと耳から顎の輪郭へと流れる。



顎先で止まった指が離れ、今度は親指が上唇をなぞる。



私は目を閉じた。




自分の存在を確認されているような不思議な感覚がする。




指は、上唇の端から下唇に移り顎をかすめ、ゆっくりと喉を通り鎖骨をたどってゆく。



鎖骨の端で止まった指に、目を開けると
目の前に黒く光る鋭い瞳があった。


じっと、私の目の奥を探るような視線に息が止まる。


彼の瞳が鈍く光って、目が細くなる。




(怖い)




彼の手が私の頬を包もうとした瞬間
止めていた息を小さく吐くと視線を外し、半歩後ろに体を引く。



カップを窓枠にゆっくり置くと




「紅茶、ごちそうさまでした。」



と言って、小さく頭を下げる。

そのまま視線を合わせず、部屋を横切ると
後ろ手でドアを閉めながら



「失礼しました。」




と部屋を出た。
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