S h o r t S t o r y


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掃除、掃除、掃除…

あの人は何が気にくわなくて、こんなに掃除ばかりさせるんだろう。
まぁ、雇われてる側のおれが言えることじゃないけど…。

「はぁ…」

まだ働き始めて3日しか経っていないのに、もう休みたい気分だ。
いや、他の執事やメイドさんに置いていかれないようにしなきゃ。
ここはがまん、がまん。


「おい」

「はっ、はい!」

ボーッとしてたのか、隣にいたなんて全く気がつかなかった。
何やってるんだ、って頭の中で自分を叱る。

「部屋に来い。」

「か、かしこまりました!」

そういえば、まともに話したことがないような気がする。
部屋で何かお話でもするのかな。
いや、おれみたいな新米はまた部屋の掃除…かもしれない。

なんて考えを巡らせていれば、もうすでに部屋に着いていた。

「左奥の部屋に入って待ってろ」

「…かしこまりました」

指示された通り、左奥の部屋に入るとそこは寝室だった。
薄暗く調節された明かりに、ふわりと浮かぶような綺麗なベッドが目に入る。
…というよりは、それ以外何もない…。
いったいどこで待ってればいいのかな……。

カチャっ…

「最近入ったのはお前だろう?」

「はい、エレン・イェーガーです。よろしくお願い致します…」

「ふん、まぁいい…これから少し仕事をしてもらう。そこに寝ろ」

指さしたのはあの綺麗なベッド。
かしこまりました、とは言ったものの、1つひとつの行動に緊張してしまう。
彼は添い寝をするかのように隣に寝た。

「俺の直々の命令だ、光栄に思えよ…。」

「っ、はいっ」

「耳元で好きです、と言え」

「っ!…か、かしこまり、ました…」

行動が全く読めない。でも、彼には絶対主従の使命が、ある。

とりあえず耳元まで迫ってみたけれど、どう囁けばいいのか分からない。
声はひそめた方がいいか、とか、女の人っぽくした方がいいか、とか、
いろんな疑問が浮かんでは消える。

「早く、しろ」

「っ…すき…ですっ」

「駄目だ、やり直せ」

「好き、です…」

「まだだ」

「すきですっ、」

何度囁いても、合格はもらえなかった。
何が足りないのか分からない。
まず、彼はどうしておれにこんなことをさせるんだろう。
すき…好きですって、囁いて欲しいだけ…?
それなら、メイドさんがすることじゃないのかな…
もしかして、おれに気が…ある、?
いや、あり得ない、こんなヴルジョアの貴族様がおれなんかに…

「仕方のねぇやつだな…手本通りにしろ」

そう言われ我に返ったと思えば、ばさりと自分の上に乗られる

「…好きだ、エレンよ…愛してる…」

耳元から、全身がぞくりと電流のように痺れる。
急に顔が熱くなって、心臓がバクバクと音を立てた。

「あ、のっ…」

「もう出来るな?」

再び添い寝の体勢に戻り、鋭い目でおれを見た。
心臓の音が聞こえてしまいませんように、
こんな気持ちになってしまったなんて、ばれませんように。
そんなことを願い、もう一度囁く。


「好きです…ご主人様…」

「ふっ、出来るじゃねぇか…じゃあ次だ」

何か新しい感情が沸き起こってしまったような気がした。
身体が、熱い。



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