書斎

□嫉妬
1ページ/1ページ



「おかえりっすー!」

「わ…ふたりともびしょ濡れ…タオル持ってくるね!」


突然の大雨。ゲリラ豪雨ってやつだ。

出掛けていたモモとカノさんは、二人してずぶ濡れで帰ってきた。


「…カノさん、これ。」


マリーが慌てている間に、自分のタオルを渡した。
拭いてあげようかとも思ったが、どうも恥ずかしい。


「ん、ありがと」


やさしいなーと言いながらも、彼は使わず、それでモモの髪を拭いた。

それも、俺の目の前で。

「あ、すいません自分で拭きますよー」

「風邪引いちゃうからしっかり拭きな」

「はぁーい」

「マリー、まだー?」


俺を通りすぎ、向こうにいるマリーと会話をとる。

先に拭き終わったモモは、部屋へと消えた。


「なんだよそれ…」

俺、カノさんのために持ってきたのに
それでモモの髪拭いてるとか意味解んねぇよ。



___そう、俺が余計に怒ったのは、違う理由もあるからだ。

最近、何だかんだ言ってカノさんはよくモモと出掛けている。

前までなら必ずキドさんと一緒に行ってたくせに…。

そんなこともあって、俺は少しカノさんと距離を置いていた。


まぁ、本人は気づいてないみたいだけど。


一応、恋人って関係ならもっと何かあってもいいと思う。

前みたいにずっと隣にいるだけ、とかでもいい。


俺が勝手に解釈してるだけだから、俺が悪いのかもしれない。

けど、カノさんだって無神経すぎる。

恋人を置いて異性と出掛けるなんて…



「……大丈夫?」


「えっ?!あっ…ぃ…いつからそこに…?」


「一応、恋人って関係なら…くらいからかなー」

き…聞かれてた?!?!

「べ…別になんもないんで!」

くるりとマイルームへ方向転換し、ダッシュで逃げ込む。

が、すぐに扉の音がして、案の定カノさんが入ってきた。


あぁ、いやだな。
前はここで、キスしたりしたよな…
また二人だけになっちまったな…

絶望で頭が痛くなりそうだった。

「ねぇ、なんか変だよ?どうしたの?」

「……わかんねぇよ」

あんたにどんだけ依存してんだ俺は。

そばにいないと、こんな気持ちになんのかよ……!


固く閉じた目から、涙が溢れた。


「ごめん…シンタロー君、僕のせいだよね?」

「わかんねぇって…!もぅ、…おれ……っ」

こんな風になってしまうなら、流れでも『付き合う』なんて言わなければよかった。


惚れられて、好かれて、受け入れようとしたら離れてく。


俺の恋は、いつもそうだった。


辛いのに逃げ場なんてなくて、ただ記憶を閉じ込めるだけ。

後悔することなんて、解りきっていたことなのに。

「もう…どっか行け…よ…」

「え…?シンタロ……」


「たのむから…!構わないでどっか行ってくれよ!!」


その声が叫びに近かったのは、多分、あのときの記憶が一瞬蓋を開けたから。

閉じ込めた記憶と、重なってしまったから。


「……わかった…」


ただ寂しそうに部屋を出ていく小さな背中を見て、また涙が零れそうになった。




『……ご主人…?あの、』


「…うっせぇ…引っ込んでろ…」




俺は力なく電源を消し、俺は眠りについた。









c o n t i n u e

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ