書斎
□嫉妬
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「おかえりっすー!」
「わ…ふたりともびしょ濡れ…タオル持ってくるね!」
突然の大雨。ゲリラ豪雨ってやつだ。
出掛けていたモモとカノさんは、二人してずぶ濡れで帰ってきた。
「…カノさん、これ。」
マリーが慌てている間に、自分のタオルを渡した。
拭いてあげようかとも思ったが、どうも恥ずかしい。
「ん、ありがと」
やさしいなーと言いながらも、彼は使わず、それでモモの髪を拭いた。
それも、俺の目の前で。
「あ、すいません自分で拭きますよー」
「風邪引いちゃうからしっかり拭きな」
「はぁーい」
「マリー、まだー?」
俺を通りすぎ、向こうにいるマリーと会話をとる。
先に拭き終わったモモは、部屋へと消えた。
「なんだよそれ…」
俺、カノさんのために持ってきたのに
それでモモの髪拭いてるとか意味解んねぇよ。
___そう、俺が余計に怒ったのは、違う理由もあるからだ。
最近、何だかんだ言ってカノさんはよくモモと出掛けている。
前までなら必ずキドさんと一緒に行ってたくせに…。
そんなこともあって、俺は少しカノさんと距離を置いていた。
まぁ、本人は気づいてないみたいだけど。
一応、恋人って関係ならもっと何かあってもいいと思う。
前みたいにずっと隣にいるだけ、とかでもいい。
俺が勝手に解釈してるだけだから、俺が悪いのかもしれない。
けど、カノさんだって無神経すぎる。
恋人を置いて異性と出掛けるなんて…
「……大丈夫?」
「えっ?!あっ…ぃ…いつからそこに…?」
「一応、恋人って関係なら…くらいからかなー」
き…聞かれてた?!?!
「べ…別になんもないんで!」
くるりとマイルームへ方向転換し、ダッシュで逃げ込む。
が、すぐに扉の音がして、案の定カノさんが入ってきた。
あぁ、いやだな。
前はここで、キスしたりしたよな…
また二人だけになっちまったな…
絶望で頭が痛くなりそうだった。
「ねぇ、なんか変だよ?どうしたの?」
「……わかんねぇよ」
あんたにどんだけ依存してんだ俺は。
そばにいないと、こんな気持ちになんのかよ……!
固く閉じた目から、涙が溢れた。
「ごめん…シンタロー君、僕のせいだよね?」
「わかんねぇって…!もぅ、…おれ……っ」
こんな風になってしまうなら、流れでも『付き合う』なんて言わなければよかった。
惚れられて、好かれて、受け入れようとしたら離れてく。
俺の恋は、いつもそうだった。
辛いのに逃げ場なんてなくて、ただ記憶を閉じ込めるだけ。
後悔することなんて、解りきっていたことなのに。
「もう…どっか行け…よ…」
「え…?シンタロ……」
「たのむから…!構わないでどっか行ってくれよ!!」
その声が叫びに近かったのは、多分、あのときの記憶が一瞬蓋を開けたから。
閉じ込めた記憶と、重なってしまったから。
「……わかった…」
ただ寂しそうに部屋を出ていく小さな背中を見て、また涙が零れそうになった。
『……ご主人…?あの、』
「…うっせぇ…引っ込んでろ…」
俺は力なく電源を消し、俺は眠りについた。
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