真面目な短編小説

□怖がりな死にたがり その2
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 彼女の体に触るのは、ダメだと思い、布団の上から彼女を揺さぶった。しかし、起きない。
 遮光カーテンを開けて、朝日が彼女に当たるようにした。すると、どうだろうか。彼女は布団の中に篭ってしまったのである。
 仕方がないので、布団を引きはがしてあげた。
「まぶっしいいいいいいいいいいい」
 まるで日光を浴びた吸血鬼のような悲鳴だった。髪の毛で隠れている火傷の痕が見えている。
「見るな、変態!」
 彼女は手で目元を隠して、そう言ったのだった。

 朝ご飯の後、二階に戻ろうしているリリを呼び止めた。
「何よ?」
「血が怖いのを克服しよう」
 私の提案に彼女は歓喜していた。祖父さんは何事だろうかと玄関の前で立ち止まっている。
「畑に行っている」
「いってらっしゃい」
 彼女は祖父さんに向かって手を振るだけだった。
 私は彼女を台所に入れた。そこでさっき貰ってきたイワシを見せる。
「これがどうかしたの?」
「これを捌けば、血を見る事になるだろ? すると、血に慣れる」
 彼女は少し考えてから、そうだねと言った。この子は馬鹿なのではないか、私はそう思っていた。
 よく切れる包丁でイワシの頭を切り落とし、切り口から腹の半分まで切り込みを入れ、内臓を出す。たったこれだけだ。
「さあ、やってみて」
「う、うん」
 彼女は既に顔面蒼白となっていた。
「ほら、髪が邪魔だろ?」
 私は彼女の髪をポニーテールにしてあげた。前髪には手を付けていない。
「さわるな」
 彼女は震える手で包丁をイワシの頭に当てた。そこから、ゆっくり力を加えていく。ストンと頭を切り落とした。恐怖の赤い液体が流れ出たのだった。
「ああ、あ、ああああああああ」
 何を言っているか。分からない。
「これも死ぬためだ。これも死ぬためだ」
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