真面目な短編小説
□怖がりな死にたがり その1
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私は風呂に入る事した。からすの行水ごときスピードで風呂からあがった。
「祖父さん、あがったよー」
いや、しかし、彼女に嫌われてしまった。絶対に嫌われた。はあ、ここで暮らすのは辛いだろうな……大きくため息を吐く。
二階の自室へ向かっている途中の廊下には、彼女の部屋がある。その部屋の前を通った時に低く小さな声が聞こえてきた。
幽霊なのか? 古い家だから出ても可笑しくはないはずだ。
「見られた。見られた。見られた。見られた。見られた。裸を見られた。傷だらけのわたしの体を見られた。誰にも見せないって決めていたのに、見られた。あの、男に見られた」
声の主は、リリだったのだ。声を掛けようとした。その時のことだった。
「そ、そうだ。自殺しよう。この世からいなくなればいいんだよ」
私は、部屋に乗り込むべきだろうかと悩んだ。
首を吊っていたら、どうするべきか?
睡眠薬を飲んでいたら、どうするべきか?
手首を切っていたら、どうするべきか?
私はあらゆる状況を考えていたのである。
「か、カッターナイフで……手首を」
そんな言葉が聞こえてきたのである。そろそろ止めるべきなのか?
「切れば終わる。切れれば終わり。なのに、それなのに」
まだ切っていないようだ。ところでさっきから入ろうとしているのだが、ドアが開かないのである。このドアって廊下側に引けば開くんだよな! 誰かそうだと言ってくれ!
ドアノブを回して、手前に引く。しかし、全く動かない。
「でも、無理なのおおおおおおおおおおおお!」
彼女の大声が響く。私は驚いて、ドアノブから手を離してしまった。
「血を見るのが、怖いのよおおおおおおお!」
自殺するほどシリアスな雰囲気だったのに、コメディになってしまった。気になったので、ドアノブを掴んだら、ドアが部屋の内側に向かって開いたのだ。
私は部屋の中へ引きずり込まれたのだった。
チリチリとした古い絨毯に倒れ込んだ。
「わたしの部屋の前で何をしていたの?」
土下座のような、いや五体投地のような体制をしている私を彼女が見下ろしているのだ。
「わたしが何をしていたか、聞いていたのでしょ? ねえ、そうなんでしょ?」