真面目な短編小説

□雪国心中
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 温泉宿に着いた。駐車場に止まっている他の車には一メートルほどの雪が積もっているのだ。
「帰る時、大変だな」
 と、私は言う。彼女はただ笑うだけで何も言わなかった。
 夕食の時間まで二人で部屋にいる事にしたのだ。すごい雪で外に出る事もできず、じさまとばさましかいないような温泉宿では、若い私達は浮いてしまうからである。
「ねえ、初めて会ったのは■■■■だったよね?」
 テレビのチャンネルが三つしか映らないとぼやいていた私に彼女が話しかけてきた。私は彼女の思い出話に付き合う事にした。それは私達が出会った時から始まり、つい最近の何気ない事まで続いたのだ。
 
 地元の食材はやはり美味しかった。夕食を終えて、少し夜も更けてきた頃に温泉へ行く事にした。
 ここの温泉は千人風呂と呼ばれるほどの大きさで混浴だ。湯船の真ん中に男湯と女湯の境目がある。時間が遅いためか、人はいなかった。私は湯船に入って待つことにする。
 チャポンと湯船に何か入る音が聞こえた。音のした方を見ると、湯浴みと呼ばれる風呂の中で着る服をきた彼女がいた。
「仕切りが迷路みたいになってたんだよ」
 と、彼女が言っていた。硫黄の匂いがする温泉に入っている間はお互いに何も言わなかった。体にも硫黄の匂いが着いてしまったので、大浴場に行き、体を洗う事にした。

 部屋に戻ると、彼女が今にも泣きそうな顔をしている。話を聞くと、
「早く結婚して同じ苗字になりたい」
そう言っていた。
「結婚しても両親が私達の仲を引き裂きにくるだろう」
と、彼女に呟いた。
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