真面目な短編小説

□怖がりな死にたがり その4
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《ひたすらに真っ直ぐ》
 死ぬことに真っ直ぐな少女と私の不思議な関係は十日目に突入した。
 今日は体調が良くて、少し遠出したくなった。電車に乗って、街に出ようか。
「ねえねえ、欲しい物があるんだけど、一緒に買いに行こう」
 朝食を食べている時にリリが話し掛けてきた。これまでは、ほとんど話さなかったのに。
「いいよ。どこで売っているんだ?」
 私は彼女が生きたいと思えるようにしたかったのだ。彼女のしたいことなら、何でも手伝ってあげよう。この命が尽きるまでだけどさ。
「ホームコンビニ」
 それはこの家から徒歩で十五分くらいの場所にある店である。ホームセンターとコンビニを足したような品揃えをして、大変便利なのだ。
「ご飯を食べたら、行こう」
「うん」
 前髪が目にかかり、表情はよく分からない彼女。だが、きっと笑っているはずだ。それも満面の笑みを浮かべている気がする。
「ホームコンビニさ行くなら、じょうろ買ってきてけ」
 話を聞いていた祖父が言った。私はコクリと頷いた。

 今日の最高気温は二十五度。東京に比べれば、かなり涼しいだろう。この気候のお蔭で体調が良いのかもしれない。
 さて、私の隣を歩いている人の特徴を述べることにしよう。白いワンピースに麦わら帽子。そしてビーチサンダル。夏っぽさが滲み出るような服装だ。しかし、その格好している彼女は、肌が白過ぎた。そのせいで夏っぽさではなく、幽霊っぽさが滲み出ていた。彼女と夜にすれ違ったら、十人中九人が幽霊だと思うだろう。残る一人は幽霊だろう。と、尊敬する小説家の真似をして、彼女の説明を絞めるとしよう。
 ホームコンビニには、リリと同じくらいの男子がいた。彼らはリリを見て、逃げ出したのである。まるで本物の幽霊を見たような顔をしていた。
「くくっ」
 笑いを堪えていたのに、漏れてしまった。リリが幽霊に間違われたのが、面白くて仕方がないのである。
 私の様子を見たリリは、凍ってしまいそうなほどの冷たい視線を向けていた。きっと、一人でいきなり笑い出したように見えたのだろう。
「わたし、欲しい物買ってくるね」
 彼女はパタパタと歩いて店の奥に行ってしまった。
 私は大きい緑色のじょうろを見付けて、レジの近くにあるガムの棚を見ていた。
「わたしは会計終わったわ」
 彼女は隣に立っていたのだ。手には小さ目のビニール袋を持っている。
「会計してくる」
 私はレジにじょうろを持って行き、お金を払った。そして、じょうろはビニール袋に入ることなく、私の手に収まったのだった。

 むき出しのじょうろを持って、家に戻った。そしてそれぞれの部屋に入ったのだった。
「ねえ、ちょっと手伝って欲しいことがあるの。このロープの先っぽに輪っかを作って欲しいの」
 リリが私の部屋に入るなり、私にそう言ったのだ。私は訳の分からないまま、かーボーイの使う投げ縄を作った。
「ばいばい」
 ロープを彼女に渡すと、彼女が言ったのはお礼の言葉ではなく、別れの挨拶だったのである。
 
 しばらくすると、ドスンと大きな音が聞こえてきた。しかも彼女の部屋の方からだ。私は彼女が倒れたのではないかと、心配になり、部屋に飛び込んだ。
「大丈夫か?」
 部屋の中は、ロープが倒れた椅子と彼女に絡まっていた。謎だらけの空間だった。私は彼女に駆け寄った。
「大丈夫よ」
 彼女は頭を押さえながら答えた。どうやら大丈夫なようだ。彼女の頭を触るとこぶになっていた。
「とりあえず冷やすぞ」
 私は彼女を背中に乗せて、階段を降りて台所を目指した。リリは軽いが、女性らしい柔らかさもあった。

 氷嚢で冷やしている途中、私はある事を考えていた。どうして彼女がロープに絡まっていたのである。 
 よく考えてみれば簡単なことだったのだ。椅子とロープで出来る自殺は、首吊りである。彼女は最もポピュラーな自殺をしようとしていた。私は彼女の顔を見て言う。
「頭をぶつけて、死んだらどうする?」
「わたしは死ぬんだよ絶対に」
 彼女の瞳は死ぬことに対して、真っ直ぐだった。

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