真面目な短編小説

□怖がりな死にたがり その3
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 すいません。久しぶりの更新です。あと、この話に関してはケータイやスマホから見た方が良いと思います。
《君の名前は?》
 老人、青年、女の子。不思議な共同生活は七日目に突入した。
 目覚ましのアラームが鳴り、私は目を覚ました。今日は体の調子が悪い。もう少し寝ていよう。
「津車、起きてる? ご飯だって」
 私の部屋に入ってきたのは言うまでもなく、リリだ。少しだけ目を開けて、彼女を見る。その表情は分からなかった。
「ちょっと、具合悪いから。軽く食べられる物と水を持ってきてくれ」
 思った以上に弱々しい声が出たので、彼女は踵を返して一階に下りていった。
 数分後。彼女は私の部屋にやってきた。お盆を持っている。その上には、不格好なお握りとプラスチックのコップに入った水が載っていたのだった。
「ありがとう。リリ」
 私は上体を起こして布団に座る。彼女は部屋の隅から座布団を持ってきて、布団の近くに座った。何故か、動作がぎこちない。私は彼女を尻目に不格好なそれを口に運んだ。それは塩味がなく、中には驚きの具が入っていた。
 祖父さんお手製の塩辛である!
 お握りに入れる物ではない。お酒と一緒に食べる物だ。日本酒が欲しい。
「作ったの祖父さん?」
 彼女に聞くと、貞子のように俯いている。
「……わたしだよ」
 思わぬ答えが返ってきた。祖父さんによると、彼女は料理を作った事がなかったそうだ。何が彼女をそうさせるのか。私にはわからない。
「そうか、美味しいよ」
 お世辞を言った。生臭いお握りなど美味しいものか! しかし、彼女の口元が緩んでいた。きっと嬉しいのだろう。
「そう。良かった」
 彼女は自分の部屋に戻ってしまった。何やら乙女チックだ。私は薬を飲んだ後、眠ってしまった。

 お昼頃になり、目を覚ますと彼女が布団の隣で眠っていたのだった。座布団を枕にして、畳に雑魚寝をしていたのである。その周りには素晴らしく面白そうな漫画が散乱していた。私が退屈しないように持ってきてくれたのか?
「おい、起きろ」
 肩に手をかけて揺さぶる。しかし、彼女は起きない。起きる気配がない。少し体調が良くなった私は彼女にご飯を作ってあげる事にした。
 さて、何を作ろうか。台所の棚を漁ってみると、素麺を見付けた。これを入麺にして食べようか。
 お湯を沸かしている間に汁を作る。干し椎茸をダシと具にして一石二鳥。
 リリが無言で台所に入ってきた。眠いのか、目をこすっている。
「いい匂い」
 初めて会った時と違ってよく喋るようになった。私を信頼しているらしい。
「入麺作っているから、居間で待ってろよ」
「うん」
 裸足で床を歩くペタリペタリという音が背後から聞こえた。
 とりあえず自分と彼女の分だけを作り、居間に持っていく。彼女がそれを食べて、一言。
「どうして、こんなに美味しいの?」
 キラキラと目を輝かしている。私はしたり顔をしてやった。
「なあ、これくらい作れるようにならないとな。将来困るぞ」
「じゃあ、作れなくていいや。わたしは死ぬから」
 彼女は私の目を見て、そう言い放った。真っ直ぐな信念の籠った目だったのだ。

 食べ終わってから、テレビを観ている人に聞いた。
「なんで死ぬんだ?」
「生きている価値がないから。こんな顔をしている人を好きにならないでしょ。人に好かれる事がわたしの生きる意味なんだ」
 テレビを観ているから表情は分からないが、淡々とした声で言った。
 もう一つ気になる事があるので私は聞いた。
「リリの本名って何?」
「リリはリリだよ。怖がりな死にたがりでリリ。この街の人は皆リリって呼ぶの。だから、わたしはリリ。祖父さんもリリって呼ぶの。だから、わたしはリリ。津車もリリって呼ぶの。だから、わたしはリリ」
 歌詞のように、自分がリリであることを主張した。どうやら本名を教えるつもりはないらしい。私はいくつか質問した。
「なあ、好きな食べ物は?」
「もちろん、甘い物」
 これは答えてくれた。
「好きな場所は?」
「この街」
 これも答えてくれた。
「好きな人はいる?」
「この家に住んでる人」
 これまでも答えてくれた。この場合の好きな人は、私なのか?
「じゃあ、本名は?」
「……」
 これは答えてくれなかった。
 今回のことで彼女が私の事を好いているのが判明した。私が死ぬなと言えば、死ぬのを辞めるかな。


その3終わり 

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