真面目な短編小説

□怖がりな死にたがり その2
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《可愛いのに》
 日が昇る頃に目が覚めてしまった。朝五時のことである。二度寝をする気にもなれず、私は一階へ降りる。
「おはよう」
「え! おはよう」
 祖父さんが既に起きていた。階段を降りて、いきなり声を掛けられたので私は驚いた。驚かない方が無理である。
「散歩行って来るよ」
「朝飯までには戻れ」
 私は春先の港町に繰り出したのだった。朝日が眩しい。どこまで行こうか。まだ、体は本調子じゃないし、すぐ近くの港に行こう。私はポテポテと歩き出すのであった。
 港には誰もいないと思ったが、多くの人がいた。ちょうど、漁へ向かった船が帰ってきたらしい。何気なく、漁船に近づいた。
「お、お前は津車かぁ?」
 一人の漁師に声を掛けられた。この港町には、小さい頃からよく来ていたので知り合いも多いのだが、彼の事が分からない。
「おらの顔を覚えてねえか。イカ釣り船の船長だぞ」
 やっと、思い出したのだ。五年くらい前に会った時に比べて、老けたなと私は思った。
「嗚呼、やっと思い出しました」
「お前、こっちで暮らすんだって? 引っ越し祝いだ。持ってけ」
 それはバケツに入った十匹のイワシだったのである。
「どうせ、こっちは魚に飽きてんだ。持ってけ、ほれ持ってけ」
「ありがとう」
 私は生臭いバケツを持って、家に戻った。
「ただいま。イカ釣り船長からイワシ貰った」
「おかえり。朝飯食べたら、捌いておけ。あと、リリを起こしてこい」
 私は手を洗ってから、二階へ向かった。彼女の部屋の前に立ち、ドアをノックするが反応はない。もう一度叩くが、やはり反応がないのだ。
「入るぞ」
 遮光カーテンが閉まっていて、薄暗い室内。リリはベッドで眠っている。ベッドの横には寝たまま観られる位置にテレビが置いてあるのだ。なんて、自堕落な生活が出来そうな部屋なのであるか。部屋を中には、○○2というゲーム機があったり、漫画が散らばっていたり、如何にも引きこもりらしい。
「起きろー。ご飯だぞ」
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