真面目な短編小説

□怖がりな死にたがり その1
1ページ/3ページ

《リリ》
私は体を病み、仕事が出来なくなってしまった。喧しい都会を離れて、田舎で暮らしたらどうかと両親に言われ、祖父さんの家で暮らす事にしたのだった。
 そこには、祖父さん以外にある人が住んでいた。彼女は私の遠縁らしい。
「初めまして、今日から一緒に暮らす勘佐津車(かんさつしゃ)だ。よろしくな」
 私が挨拶をしても彼女は何も言わずに走り去ってしまった。何か、嫌われるような事をしたのだろうか。出会って数分も経っていないのに。
「リリは人見知りが激しくてな。普段は引きこもってる」
 祖父さんの話を聞き、私は彼女の部屋に行ってみる事にした。これから一緒に暮らすのだから、きちんと挨拶くらいしてほしい。
 ここで彼女の外見に着いて記述しておく。だらしなく伸びた黒い髪は顔の半分を隠している。日光に当たった事が無さそうなほどに白い肌は、まるで幽霊のようだ。体型は、決して一般男性受けするような物ではない。表すなら……上からペッタン、ペッタン、ペッタンと言ったところだろうか。
「おーい、リリ? よろしくな」
 ドアの前から声を掛けてみるが返事は返って来ない。初日から、ガツガツいくのもどうかと思った。だから、オレは自分の部屋で荷物の整理を始める事にしたのである。

 夕飯の時、祖父さんが喋ること喋ること。マシンガンのように単語が飛んでくるのだ。リリは相槌を打っているだけだったのである。
その後は何をするのか? もちろん風呂に入るさ。
 祖父さんが一番風呂に入るのは寿命が縮まるから入らないと言っている。私から入る事にした。リリの姿も見えないのだが、引きこもりは部屋にいるだろう。
 脱衣所のドアを開けると、そこには生まれたままの姿の彼女がいたのだった。まるでハーレム物のライトノベルのようなラッキースケベである。そして、私も男だ。異性の裸に興味がない訳がないのである。
「ちょっと……何を見てるのよ!」
 私の顔に向かって風呂桶が飛んできたのだった。たったこれだけの代償でうら若き異性の裸を見られるとは、安いものだ。もちろん脱衣所を追い出された。彼女の体には痛々しい傷跡が刻まれいたのであった。後味が悪い。
「忘れろよ」
 彼女が服を着た後に脱衣所を出てきて、そう言った。恐ろしくドスの聞いた声であったのである。世の中にこんな声を出す女の子がいるのだろうか? いや、目の前にいた。
「おー怖い怖い」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ