空想部屋

□転校生戸塚くん
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するとそこには黒いスーツを纏った美形が立っていた。

「すいません、主人がお弁当を忘れてしまいまして、届けに参りました。」

男はそう言うと戸塚の方に向かって歩いてきた。


主人?お弁当?………もしかして俺のことか!?

前の学校には有名シェフに作らせたお弁当を持って行ってた戸塚だが、離婚したせいで今日から母親特製弁当に格下げになっていた。
もしかしたら父親が息子を案じて使いのものに弁当をもたせたのかもしれない。

そして男は案の定、戸塚の目の前で立ち止まった。

やっぱり!ビンゴだ!

この庶民が集まるクラスに従者がいるような人間は僕以外いるはずがないのだ。

僕にはこんな美形な従者がいる。
戸塚は鼻高々な気分になった。
これでさっきの汚名返上だ!

後ろの席からは舌打ちが聞こえ、隣の女顔(后のことらしい)は「マジかよ……」と呟いている。

きっと2人とも悔しいのだろう。

いい気味だ!

「ご苦労だったな、新顔か、見ない顔だな?」

戸塚はクラス中に見せつけるように弁当に手を伸ばした。

すると何故だかまた皆が固まった。

なんだろう羨ましいのだろうか?

その空気を不思議に思っていると男の冷めた視線に気付く。

あれ?なんか嫌な予感がする。そして



「は?あんた誰ですか?」

男の言葉に戸塚は血の気が引いた。

予感。当たったー!

「え、晴明、知り合いじゃないの?」

しかも女顔が男と会話しだしたし!

「違います。っていうか后様、第一声がそれですか?私も暇じゃないんですよ、ありがとうくらい言いなさい!」

后様って言ったし!

「あ、ありがと…え?でもなんで戸塚、ご苦労様って、え?、」

「うん。后。聞き流そうな?流石に可哀想だから」

甘雨が后の肩をバンバンと叩く。

その音が教室に虚しく響いた。

クラスメートがまた戸塚を慰めてくる。

「天神ってあー見えて結構いいとこの跡取りらしいよ?まっ雰囲気は普通の高校生だけど……」

「なんかいつも、美形軍団に囲まれているよね、この前なんてあの霧砂が頭下げててビックリしたわ」

「なんかお父さんがすごいお金持ちらしいよ、しかも溺愛されてて月に家一件買えるくらいのお小遣い貰ってるって聞いたことあるよねー」

「っていうかあの神代グループのトップからスカウトされたって噂あるよな?そんで即答で断ったって!勿体ないよな〜」

なんだろう、すごく泣きたくなってきた。

しかも神代グループの名前出てきたし………

さっき女顔……じゃなくて天神后様のことを思い切り睨んでしまったが、父に影響はでないだろうか……心配だ。

戸塚が悩む一方で晴明と后は浮き世離れした会話を続行していた。

「ったく!あんたはもっと側近に優しくすべきです。……あ、忘れてました!」

晴明は内ポケットから札束を出して后に渡す。ざっと見て三百万くらいある。

「うわ、なんだよこの大金!学校でこんなの渡すなよ!」

「父上からです。今晩は緋沙様とデートするから、それで晩御飯を食べてきなさいと………」

「千円で足りるから………」

内容が少しぶっ飛んでいる気もするが、なんだかもうどうでもいい。

落ち込む戸塚の肩を何も言わずクラスメートは叩いてくれた。



何だろう、すごく心地よい。

戸塚は遠い目をして悟った。



あぁ、俺、庶民だわ……

これからは慎ましく生きていこうと


end
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