空想部屋ーmusicー(仮)
□ポロメリア
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ーさよなら、かわいい夢ー
楔は空を見上げた。
昔はよくこの丘で1人泣いていた。
母が亡くなったとき。
兄に嫌われ疎遠になってしまったとき。
鬼として生きると決めたとき。
いろんな重圧に押しつぶされそうになったとき。
子供だからと甘やかしてくれる人は楔にはいない。
何度、普通の女の子に戻れたらと思っただろう。
そうしたらきっと今でも兄は私を可愛がってくれただろうか?甘やかしてくれただろうか?
兄はよく頭を撫でてくれた。
いい子だと言ってくれた。
あんな日がいつか、また訪れるだろうか………。
楔は瞳を閉じて兄の気配を探った。
オモテの皇子の部屋で勉強を教えている。文句を言いながらも、いろいろと気配りをしていて、つい楔も顔が綻んだ。
幸せそうだ。
オモテの皇子に会ってから兄は変わった。そうさせる何かがあの皇子にはあるのだろう。
オモテの皇子と言様は楔と華の関係に似ている。
違うのは華が楔を拒んだことだ。
そして楔もそんな華を拒んだこと。
あの2人のように素直にはなれなかった。
それでも期待している。
あの皇子に会う度に楔の中にも何か変わり始めてる予感があった。
もしかしたら……と
言様が変われたように、自分も変われるんじゃないかと……
普通の女の子にはもう戻れない。
けれど、妹になら戻れる。
楔はずっとここから走り出す力が本当は欲しかったのだ。
楔はまた空を見上げた。
闇世界には珍しく空は澄んでいた。
そういえば……
楔はあることに気付いた。
いつも泣きたいときはこの丘に来ていた。
そして泣き終わるといつも丘の向こうにある湖に目を冷やしに行ってたのだが、いつも其処には華が居たのだ。
いつも何か言いたそうにしてたが結局何も言わず去っていった。
あれは不器用な兄の優しさだったのかもしれない。
楔はくすぐったい気持ちになり
そして湖へと向かった。
そこに兄はもういない。
それでも楔の心は久しぶりに晴れ渡っていた。
end