空想部屋

□おねだり
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「チョコください」

ずっと不機嫌だった晴明が后に右手を差し出しながら言った。

「は?チョコ?何だよいきなり」

后は格闘中の宿題から晴明に視線を移した。

「バレンタインのチョコですよ、待っても待っても待っても后様はくれる気配がないので!」

明らかにイライラしている晴明に半ば呆れながら后は素朴な疑問を口にする。

「なんでそんなキレてんの?ってかさバレンタインって一昨日じゃなかったっけ?」

「だから怒ってるんですよ后様、あんた数学はやめて国語を勉強しなさい」

晴明は后の目の前にある数式だらけの教科書を漢字だらけの教科書にすり替えた。

「うわ、なにすんだよ晴明!明日までに提出しなきゃ先生に殺される!」

慌てる后を横目に晴明は袖口から取り出した甘酒を飲み始める。

「返して欲しかったらチョコを渡しなさい」

無茶苦茶だ。
こうなると晴明は面倒くさい。

「面倒くさいとは失礼ですね、それが大好きな側近に対する態度ですか?」

「心を読むな!ってか今、手元にチョコなんてねーし!」

后は一応男子なので、チョコは貰う立場だ。最初から誰かにあげるためのチョコなど用意していない。

「貰う立場って、あんた女子からは一個も貰ってないでしょーが!むさ苦しい男からは沢山貰ってましたけどね!」

「違う、あれは………友チョコってやつだ(遠い目)ってか心を読むなってば!」

「ほぅ、友達がキスを迫るんですか?ずいぶんと変わった友達が沢山いるんですね!ったく事後処理するこちらの苦労も労って欲しいもんです」


事後処理って何だろう?

確かに后に迫ってきた奴が何人かいたが………もしかして、

后は曇った表情で晴明を見つめた。


「心配しなくても殺してはいないですよ、殺しては、ね」

晴明は甘酒を飲み干したのか、二本目を胸ポケットから取り出しながら言う。

「なら、良いけど………」

后はほっと胸をなで下ろす。
そんな后を見ていた晴明は小さく溜め息をついた。


「甘いですね、后様は、本当に」


そう言うと晴明は両手で后の頬を掴み無理やり晴明に顔を向けさせた。 

后が甘酒はどこに消えたのかとぼんやりと考えていると、空気が不安定に揺れる気配がした
きっと晴明の不安からだろう

いつものことだが、バカだなと思う。
最近知ったが、晴明は以外と本当に繊細だったりするのだ。

行動が大胆でも心が不安で溢れていることが多い。

后はその不安を消すために晴明の瞳を真っ直ぐ見つめた。

正直、面倒くさいが可愛いとも思えてしまうのだから仕方ない。


「チョコがないなら、后様のその甘さを少しだけでもいいので私にも下さい。」


あぁ、やっぱり…… 恋人モード入ったな晴明


突然の晴明の真剣な顔と声に后は一瞬ドキリとしてしまうが、流されて昼間から全て捧げてやるつもりはない。


「……キスだけな」

后は晴明が否定できぬようワザと冷めた態度で返した。


「………わかりました」


晴明は舌打ちした後に后に優しく口付けをする。
舌を甘く絡ませるたびに、つい短く声が漏れ、そのたびにまた強く晴明に求められる。

「……后様、足りない。」

長い口付けが終わり不満げに訴える晴明に后は冷たく告げる。

「教科書、返して、宿題片付けるから!」

「后様、もう少し余韻を………」

「知らんわ!」

晴明はぶつぶつと文句を言いながら后に教科書を渡す。

それでも少し機嫌は直ったようだ。
そんな晴明を見ていたらなんだか心が
和む。

「晴明さーん、宿題終わったら続きしてやろうか?」

后が意地悪く笑って誘うと晴明は眉間に皺を寄せて珍しく声をあげた。



「あんた、その普段とのギャップなんとかならないんですか!」



それは晴明の心からの叫びだった。



end

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