空想部屋

□優しさの裏側
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「これで今月3回目なんだけど!」

后を見つけた華は、溜め息をつきながら后に近寄った。

「う………ごめん、華。」

落ち込んでいるのか、気まずいのか后は目をそらしながら謝る。

その様子を見て、また華は溜め息をついた。

「まぁ、悪いのは我が皇……后君じゃないけどね」

華は交番の簡素な机と椅子に座らされた后の向かい側に座る男をチラリと見た。

30歳くらいの普通のサラリーマン。
殴られたのか頬が少し腫れていたが爽やか系の顔をしている。
普通に女性とお付き合いするのには何不自由ないだろうに…………

バカな男だ

高校生。しかも男に痴漢行為をするなんて、会社にバレたらクビだろう。

ってか后をターゲットにした時点でこの男に命の保証はない。

こんな男、どうなったって構わないけど


「まぁ一応、被害者ってことになってるけど、彼も殴っちゃってるしねぇ……ケンカ両成敗ってことで今回もいいかな?」

后と華の顔を交互に見ながら警察官は面倒くさそうに話しかけた。
前回(5日前)も同じようなことがあり(話すと長くなるので省略)その時も確かこの警察官だった。

その態度に華は少しムッとした。
 
「ケンカ両成敗?何言ってるの、痴漢行為は歴とした犯罪だけど?」

「ちょっ、華!」

警察官に文句を言い出す華を止めようと后が華の上着の裾を掴もうとしたとき、ずっと下を向いていたサラリーマンがいきなり怒鳴りだした。

「ふざけるな!俺は痴漢なんてしてない!こいつが先に色目を使って誘ってきたんだ!」

「はあぁ!?俺がいつ誘ったって!?」

さすがに后がブチ切れた。

「俺のこと見てたじゃないか!だから触ってやったんだ、同意だったのにいきなり殴りやがって!」

見事な逆ギレだ。
そんな言い訳誰も信じないだろう。
流石に警察官も呆れた顔をしている。

「耳元でハァハァ言われたら気持ち悪くて誰でもみるだろうが!同意じゃなくて拒否反応だ!」

確かにそれは気持ち悪い。華は落ち着かせようと后の背中をさする。

「嘘つくな!俺の指でイった癖に、このエロガキが!」

は?指!?

「イッてねーし!お前が1人でイッたんだろーが!捏造してんじゃねーよ変態野郎!」

2人の言い争いの内容に華も警察官も唖然とする。

「ちょっと待って、我が皇子。じゃなくて后君。指って何?触られただけじゃないの?」

「…あっ………」
后は明らかに、しまったという顔をした。

后のことだからすぐに殴って痴漢撃退していたと思っていたのだが、今の話を聞いたところ違うらしい。

「なんですぐに殴らなかったのさ!」

后に怒っても仕方ないのは分かってるが、つい華は声を荒げた。

「だから、それは俺のテクニックに、」

変態サラリーマンが空気も読まずに会話に割り込んできた。

「……あんたは黙ってろ!このゲス野郎が!」

一瞬その場の空気が凍ったと同時に華の殺気が部屋に満ちていく。

「だって、迷惑かけたくなかったから」

その空気に耐えられなかったのか、后がポツリと言う。

「は?迷惑?今更何言ってるのさ、へんな気使わないでくれる?余計迷惑なんだけど!」

ちょっと言い過ぎたかもしれない。
いつも一言多いと自分でも思うがなかなか治らないのだ。

「うん。ゴメン。結局殴っちゃったし……指までは我慢したんだけど流石にそれ以上は我慢出来なくて、今度からはすぐ殴る。」 

さらっと后はすごいことを言う。

「それ以上って何さ我が皇子!?まさかこのゲス野郎に許したの!?」


「まさか!速攻で殴って阻止したって」

后は慌てて首を横にブンブンと振る。

よかった。肯定されたらオモテの世界が例の奴らによって破壊されるところだった。

でも

華は少し不安になった。
もしかして我が皇子はいつもギリギリまで我慢していたんじゃないかと、

我が皇子のことだ、今日だけ気を使ったとは考えにくい。

この手のことで華が保護者として呼ばれたことはもう数え切れないほどあるのだ……




「華、ごめんな?いつも迎えにこさせて………」

后は、考え込んでる華の顔を伺うように恐る恐る覗いてきた。

気を使わせるなんて護衛失格じゃないか……華は自己嫌悪に陥った。

「だから、そういうこと気にしないでくれる?」

これが僕らの仕事なんだから……

余計なことは言うが、肝心な一言は言えないのが華だ。

だが后もそれはもう分かっている。

「うん。……じゃあ、ありがとう華!」

后は屈託のない笑顔で華に告げる。

そんな
笑顔に華は心が暖かくなった。
何度、この笑顔に救われただろうか……
この笑顔のためだったら何だって出来る気がする。


変態サラリーマンもその笑顔に反応するが警察官に睨まれ、すぐにおとなしくなった。




結局后の判断で示談ということになり(詳しく状況を説明するのが嫌だったらしい)
そのまま瞬間移動して家まで送った。

后は疲れたのかすぐに自室に布団を
敷いてさっさと横になってしまったので、闇世界から戻ってきたばかりの甘雨に護衛を任せて華は部屋を後にした。





「言と晴明と親父には黙っといて、ほら…相手を殺すとか言い出すから」

帰り際、華に后が言ったのだが

あの3人が気付かない筈がないだろう。


華は薄く笑った。


まぁ…でも、あの3人にはあの男は殺せないだろう。

そんなことを考えながらも、
華はプラットフォームに立ちながら遠くから近づいてくる電車の音を聞いていた。


どんどん音が大きくなる。


そろそろかな……

華はそっと目の前の男の背中を押した。

そして耳元でそっと呟いた。
 


「逝ってらっしゃい。この変態ゲス野郎」


もちろん、結界を張っているので男に華の声は聞こえない。


電車のブレーキ音と男の声が混ざりホームに響く。


あの3人には殺させない。


殺すのはこの僕だから………


「今月3人目だな」

冷めた視線の先には、真っ赤な血や肉片が散らばっていた。


我が皇子は知らないだろうな。

僕なら相手を殺さないと思っていつも僕を呼ぶんだから。

でもそれでいい。

彼のためなら何だってできる。



僕の……唯一の我が皇子。



end

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