夏目 壱辻屋 [dream]

□17歳 冬
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殺風景な夏目の部屋で、昨日開けたという美味しい紅茶を飲みながら、三人はいつものように穏やかな時間を過ごした。30分ほどして帰ってきた塔子さんが出してくれたケーキは、とっても可愛くて美味しかった。
お茶をしながら、木月は夏目に聞きたいことを全部聞いた。何故夏目が藤原家に住んでいるのか、両親はどこにいるのか、何故星笛は夏目の家を知っていたのか。
星笛が夏目の家を知っていたことは夏目も知らなかったようだが、家族の事情は教えてくれた。

「苦労したんだね夏目。他人と一緒に暮らすのは大変だと思うけど、でも塔子さんは夏目と一緒に居れて幸せそうだね。」
「そう・・・かな。だといいんだけど。」
「話してくれてありがとう。それにしても広い家ね。庭も素敵。持ち家なら、ペットとか飼ってないの?」
「いや!飼ってない!ペットなんて飼ってないよ!その、毛とか、さ・・・。」

不自然に動揺した夏目を不信に思ったその時、窓が勢いよく開いて、何かが入ってきた。

「夏目、帰ったぞー。ん?何だ今日は、見かけん客がたくさ・・・フゴッ」
「・・・木月、ちょっと席を外す。」

夏目は窓から入ってきた丸くて変な生き物の口を塞いで、すごい勢いで廊下へ出て行ってしまった。あれは何だったんだろう。夏目でも星笛でもない声が聞こえたけど、あの生き物の声だったんだろうか。そしてここ、二階・・・なんであの生き物は窓から入ってこれたのかしら。
木月があっけに取られていると、星笛が口を開いた。

「木月、最近悩んでいることがあるでしょう。」
「わかる?あとちょっとでまたコンクールなの。トリオって言って、三人だけで演奏するのよ。とっても難しい。あとはね、学校出てからの進路を考えなさいって先生やママ達から言われてる。就職するのか、大学行くのか、専門学校行くのか、とか。どうするべきなのか、考えがまとまらないの。」
「木月はどうしたい。」
「私は・・・。」

木月は昔から音楽が好きだった。小さいころ音楽教室に通うのがとても楽しみだったし、お小遣いを貯めてはポータブルのプレイヤーに色々な音楽を入れ、好きなアーティストや団体の演奏を聴きにに行った。中学から吹奏楽部で活動しており、技術はどうあれ演奏するのも好きだ。
だから、仕事をするなら音楽に関わりたかった。しかしどう関わればよいのか分からない。好きなジャンルも多すぎて、絞りきれなかった。

「木月、とりあえず大学で音楽を学ぶといい。」
「音大ってこと!?無理だよ、音大はお金持ちの行くところだし、小さいころから楽器やってないと。」
「木月なら大丈夫。木月ならそこに行けるし、勉強した音楽を仕事にできる。私は分かる。私も、それを望む。」
「星笛・・・。」

星笛の優しくも真直ぐな目で見つめられると、無謀にも木月は、自分が音大へ進むことが出来る自身が湧いてきた。それが最良の選択なのだという思いが自分の中で生まれ、あっという間にそれは確信に変わった。あと一年、頑張ればその道は開けるかもしれない。

「星笛、ありがとう。やっぱりあなたは私のお姉さんだわ。」

木月がそういうと、星笛はにっこりと微笑んだ。
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