夏目 壱辻屋 [dream]

□15歳 秋
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掃除を終え、木月と夏目は一緒に学校を出た。
歩いていると、行く先に星笛の姿が見えた。
優美な銀色の髪。それが風になびいているのを見ると、うだるような残暑の中でも涼やかな気分になれた。
星笛はいつものように、二人を人気のない森の中へ導いた。

以前一度、かなりの山道に入りそうになった。セーラー服にローファーではとても進めないような道だ。
木月が無理だと言うと、星笛は不思議そうな顔をしてから、少し考えて納得し、森の中にある少し開けた丘を選んだ。それからは険しい山へは入っていない。
ちなみにその時、夏目は何の迷いもなく山道を進もうとした。制服が汚れるのにも慣れている様子で、そのことが意外だったのを木月は今でもよく覚えている。

開けた草原に出ると、三人は腰を下ろした。そして静かにおしゃべりを始めた。
何を話すでもない。夏休みのこと、学校のこと、星笛は最近の森の様子を教えてくれたり、木月のことを聞きたがる。
大きな秘密を共有しているにも関わらず、決してスリリングな感じはしない、穏やかな、三人だけの空間。毎日の忙しい生活の中で、木月はこの時間、とてもリラックスすることが出来た。
そのことを二人に伝えると、二人は嬉しそうに笑った。

「木月が寛いでくれて私も嬉しい。」
「木月はいつも忙しそうだからな。」

いつも微妙にかみ合わない星笛と夏目の会話に、木月は癒された。きっとお互いマイペースなのだろう。
星笛の話し方は、やっぱり人とは少し違う。あまり言葉に感情を乗せない。しかし話すときの柔らかい声や、優しい笑みをみると、妖だから感情がないなどどはとても思えなかった。
まるで優しい姉のようだ。木月はそう思っていた。初めて会った時には分からなかった性別も、話していくうちに何となく女性かなと思うようになった。
星笛が姉なら、夏目は可愛い弟かしら。そんなことを思って一人で笑っていると、少し風が涼しくなってきた。

「もう夕方か。」
「早く帰った方がいい。夕立が来る。」
「え、大変。ママそんなこと言ってなかったから、傘持ってないよ。帰ろう、夏目。」

森を出る道の途中まで案内してくれた星笛に手を振って別れ、木月は夏目と二人で足早に歩き始めた。
平坦とはいえ整備されていない道を歩くのは木月は少し骨が折れ、自然と無口になってしまう。夏目は楽そうに足を運んでいるが、もともと積極的に話す性格ではないのかあまりしゃべらなかった。

もう少しで人道へ出るというところで、ふと夏目が足を止めた。俯いているから、足元に何かを見つけたのだろうか。
木月が不思議に思っていると、夏目は顔をあげた。

「木月。星笛のこと、どう思う?」
「どうって・・・そうね、お姉さんみたいな存在かな。優しくて綺麗で、一緒にいて落ち着ける。夏目が弟で、三人姉弟みたいだって、今日ちょうど思っていたの。
・・・って、あれ?そういうことが聞きたいんじゃなかった?」
「いや、いいんだ。」

夏目は微笑むと、さっきまでと同じように土を踏みしめて歩き始めた。木月は不思議な気持ちのまま夏目の後を追ったが、人道に出ておしゃべりを始めると、その気持ちはどこかへ消えてしまった。
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