進撃 第壱扉 [dream]

□生還者
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左足を食われた痛みでバランスを崩し、マヤは地面へ落下した。
衝撃でしばらく動けない。

大きな足音。
視界がふっと暗くなる。

来た。

(兵長。)

服が掴まれる。
身体が宙に浮いた。

(兵長。私は、あなたのそばで生きると決めた。
あなたの側に、必ず帰る。)

マヤは動き回った上に失血し、体力は限界だった。
意識が朦朧とする。

手首を切るか頬を切るか迷っているうちに、巨人の口の中に入ったのが分かった。
丸呑みされたのは、本当にラッキーだった。

(兵長!)

とっさにブレードを構えた。

おそらく口腔から胃袋までの構造は人間も巨人もほぼ同じ。
なら。

舌の付け根と思われるあたりで周りの肉に刃を深く突き刺す。
落下が止まった。
あとは食道を切開すれば良い。
肉に挟まれながら、新しい刃を装填し、舌の横の肉を刻んでいった。
刻むそばからシュウシュウと音を立て、傷口は修復されていく。
狭いし臭いし気持ち悪い。
少し下には間違いなく、胃液に溶かされつつある仲間の遺体があるだろう。
しかしマヤはあきらめず、肉の薄そうな部位を探して刃を立て続けた。

そして。

光。

感動は無かった。

私が兵長の元へ帰るのは、当然のことなのだ。

巨人の首をさらに大きく切り開き、マヤは転がり出た。

遠くに援護らしき兵を見つけたので、マヤはこれ以上戦うのをやめた。
第一体力が限界だ。
近くにいた怪我人を見つけ、抱え、ガスをふかして兵糧の荷車を探す。

兵糧の荷車は幸い少し離れたところにいた。

マヤと、マヤが抱えた怪我人(なんとアンリだった)の帰還に皆びっくりしている。
マヤはとりあえず止血処置をし、麻酔を打って痛みを止めた。

処置をしながら、大分落ち着いたらしい戦場を伺った。

「多分このあたりの巨人は今ので殲滅されたんだろうな。」

隣で横になっているアンリが言った。

「うん、様子を見ながら合流しよう。早いうちに合流しないと、この状況下でまた巨人に遭遇したら、絶対に助からないもんね。」

アンリがもうひとつの荷車へその旨を伝え、本部へ向かった。

「マヤにはいくら礼を言っても足りないな。」
「フフン、患者を救ってこそ医者である!」
「お前、何か変わった?」
「うん。」
「もしかして、兵長?」
「...うん。」
「そっか。そいえばお前、なんか濡れてるし異様に臭いけど、どした?」
「巨人に飲まれちゃったから。」
「はあ!?...っ...いってぇ。幽霊じゃねえよな...どうして助かったんだよ...?」
「ええとね...ごめん、もうそろそろ意識が飛びそうだ...。」

その時、馬を引いてくれている兵糧の人が叫んだ。

「本隊が見えたぞ!おーい!おおーーい!」
「気付いた!やったぞ!」

荷車の中が歓喜に沸く。

本隊。
ああやっと、兵長のもとへ帰ってこれた。
兵長は無事だろうか。

「マヤちゃん!?」

ハンジさんが荷車をのぞき込んでマヤを見つけた。
マヤは最後の意識をかき集め、巨人の中から脱出した方法を、手短に説明した。

「街までにもし、飲まれる人がいたら、役に立てて下さい。
あと、兵長は?」

ハンジはマヤの頭をくしゃくしゃ撫でながら言う。

「もちろん無事だよ。」

帰ってこれた。

帰ってこれたんだ。

その安心感から、マヤは気を失った。
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