進撃 第弐扉 [novel]

□冷徹...?(ナナバ)
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がたごとがたごと。
調査兵団本部へ向かう馬車が立てる音が特別陰気に聞こえるのは、やっぱり俺の気のせいだろうか。

今日も俺は、自分で仕立てた調査兵団の制服を、自ら納品しに来た。
本当は運び屋として下男を一人雇っていたのだが、一ヶ月前に親が病気で倒れたとかでバタバタと実家に帰ってしまった。その男ヘンリーは馬鹿だが性格は良く、納品先でお茶をご馳走になったり可愛がられていたらしい。もちろんうちでも、旦那様やおかみさんに可愛がられていた。
そんな“愛され”ヘンリーが、唯一表情を曇らせた顧客が、調査兵団だ。その理由は自分で納品に行くようになって、すぐに分かった。

入口に馬車をつけると関係者証をつけ本部に入り、担当者の部屋まで制服を運ぶ。もちろん商品なのでシワにならないよう台車やカバーなどを使って細心の注意を払う。納品は担当者が部屋にいる確率の高い、午前10時。伝票には商品の明細を書いて、現物と即チェック出来るようにする。会計は月一度、まとめて行う。
出来るだけ早くこの場を去りたいために作った決まり事だ。

コンコン、と担当者の部屋をノックすると、中からどうぞと綺麗な声が返ってくる。俺は職員室に入る小学生のような気持ちでドアを開けた。

「おはようございます、仕立て屋のグスタフです。ご注文の品をお持ちしました。」
「おはようございます。拝見します。」

それだけ言うと、その担当者はいつものように伝票と制服を機械的にチェックしていく。俺は黙って待っている。会話はない。天気の話さえしない。

綺麗な人ではある。いや、とてつもなく綺麗な人なのだ。しかし冷徹というか非情というか、とにかく雰囲気が怖いのである。笑顔はおろか、真顔以外の表情を見た事がない。歳は俺と同い年くらいだろう。背に至っては180cmの俺にせまる勢いだ。

ナナバ、という名のその担当者は、伝票にサインをすると、拳を胸にあてた。

「ご苦労さまでした。」

この瞬間が俺は一番苦手だ。なんで兵士でもない俺に敬礼するんだよ...。
しかし上客相手にそんな不満は見せず、こちらも淡々と返す。

「いつも有り難うございますナナバさん。次は5日後、シャツを50枚お届けにあがります。では、失礼致します。」

敬礼は返さずに、深々とお辞儀をすると、俺は早々に部屋を辞した。
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