夏目 壱辻屋 [dream]

□17歳 冬
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木月は最近気になることがあった。

ここ三カ月くらい、星笛に会っていない。今までもそれほど頻繁に会っていたわけではないが、前に会った時はまだコートを着ていなかった。どうしているのだろう、もう私に会うのをやめたのだろうか。星笛が去ると決めたのなら木月はその事実を受け止めようと思っていたが、別れの挨拶の一言もないのが引っかかっていた。

そしてもう一つ。朝洗面所で顔を洗っていたとき、鏡に映る自分の顔を見て木月はハッとした。自分の年齢が、星笛の外見に追い付いている、と。出会ったときの星笛は、木月にとっては大人っぽいお姉さんに見えた。しかし今見ている自分の顔と、記憶の中の星笛の顔は、どう見ても同学年くらいだ。これが、最近星笛に会えていないことに関係するのだろうか。

時は高校二年の冬。冬休みに出場するコンクールの準備に加え、卒業後の進路についても考え始める時期であり、木月は普段なら感じないようなストレスを感じていた。
星笛と夏目と三人でいる、あの穏やかな空気がたまらなく恋しかった。

色々なことを星笛に直接聞きたかったが、会えないのであればどうしようもない。希望を捨てずただただ待つと決めた矢先、廊下から夏目が自分を呼んでいるのが見えた。
二年になって夏目と木月はクラスが別れ、前ほど頻繁には会わなくなっていた。

「木月、大丈夫か?疲れているみたいだけど。」
「部活が忙しくて・・・でも大丈夫。それよりどうしたの?」
「見ろよ、来てる。」

夏目の視線を追うと、そこには懐かしい優美な姿が見えた。当たり前だが、星笛は冬だと言うのにコートも着ず、冷たい風に髪をなびかせている。あの銀色の髪はきっと、雪原では真新しい雪の白さに溶け込んで見分けがつかないだろう。そんな景色を木月は想像した。

「やっと会えた。」
「久しぶりだな。」
「寒そう、あの子。」
「あの子って、星笛のこ・・・え?ちょっと、木月!?何で泣いてんだ!?」

夏目に言われて初めて、木月は自分が泣いていることに気付いたが、いったん気付いたらもう涙は止まらなかった。木月はその場にしゃがみこんで、額と膝をくっつけて顔を隠し、肩を震わせて泣いた。ここは廊下だから、夏目はいろんな人にからかわれたり注目されて困っているのが分かった。
ごめん、夏目。君が目立ちたくないのは何となく知っているけど、もうちょっとで泣き尽くせるから。

少し後、木月が気持ちを落ち着かせて立ちあがると、夏目はやっぱり困ったような顔をしていた。

「ごめんね、夏目。私ちょっと忙しすぎたんだと思う。夏目と星笛に会えて、ホッとしたの。」
「大丈夫か?落ち着いたなら、いいんだけど。」
「ありがとう、優しいね夏目は。夏目には甘えっぱなしだけど、今日あの子のところに連れて行ってくれる?」
「そんな・・・気にするなよ。放課後、いつもの感じでいいか?」
「うん。じゃあ私、顔洗って戻るね。」
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