夏目 壱辻屋 [dream]

□15歳 秋
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夏休みが終わり新学期が始まった。
何十日もあったはずの夏休みは、終わってみるとあっという間だ。

しかし夏休みには色々なことがあった。
木月は、所属している吹奏楽部で県のコンクールに出場し、見事全国大会への切符を手にした。高レベルの全国大会ではまるで歯が立たず良い成績が残せなかったが、初の全国大会出場ということで、部員は皆それなりに満足していた。
夏目は部活に入っていないため、クラスメイトと合宿をしたり、夏祭りに出掛けた。

一度、木月と夏目は二人で会った。否、正確にはそこには星笛もいた。登校日の帰り道、木月と夏目が歩いていると、星笛が二人を待っていたのだ。
星笛との出会いから、木月と夏目は何となく仲良くなった。そしてたまに、星笛を交えて三人で会った。星笛は木月にも滅多に姿を見せなかったが、木月は夏目と一緒にいる時に星笛の気配を感じることが多く、夏目と一緒にその気配を辿っていくと星笛に会える、ということがあった。
まるで夏目を通して星笛に呼ばれているみたい、と木月は思った。

この日も木月は、掃除中に夏目と話していて星笛の気配を感じた。

「木月!全国大会へ行ったんだってな。おめでとう。」
「ありがとう、夏目。お陰で宿題がぎりぎりだったわ。」
「はは。遊んでた俺だって、ぎりぎりだった。」

そんなおしゃべりをしていると、夏目は何かに気づいたように、ふと窓の外を見遣った。
鋭い視線を追うと、木月はその先に、校庭に一人立っている星笛を見つけた。

「...見えた。今日は会えるのかしら。いつも逃げられちゃうからな。」
「会えると思うよ。今日は妖力が強いみたいだから。」
「すごいね夏目。私、夏目がいるときにしか星笛に会えない気がする。」

二人が窓辺に寄り、周りに聞こえないよう声をひそめて話していると、夏目はふと表情を曇らせた。
そして周りにあまり人がいないことを確かめてから話始めた。

「木月、巻き込んで御免。俺のせいで特殊なものを見てしまって、嫌な思いもしているだろうし...。」
「...夏目のせいじゃないし、巻き込んでしまったのは私だよ。夏目には、いつも星笛に会わせてもらって感謝してる。
不思議だよね、全然不気味な感じがしない。夏目も星笛も。きっと夏目は...」

苦労しているのよね、木月がそう言い終わらないうちに、他の掃除当番から「そこのバカップルは手を動かしなさーい」と野次が飛んだ。
高校生にとって、男女二人で窓辺でひそひそ話をしていれば、カップルにも見えるのかもしれない。
煩わしい。男の子の友達がいてもいいじゃない。そう思って木月は思わず顔を歪めた。

「戻ろうか、夏目。終わったらまた、星笛のところへ連れて行ってくれる?」
「ああ。じゃあまた後で。」
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