夏目 壱辻屋 [dream]

□15歳 春
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木月佐和が初めて"その人"を見たのは、高校に入学してすぐ、全校朝礼の朝だった。

四月といってもまだ肌寒く、空は高く澄んでいる。木月はカーディガンの袖を指先まで伸ばし、カイロを握りながら朝礼に臨んでいた。

早く終わらないかな。
そこにいる何百人もの生徒と同じことを考えながら、木月は皆の様に俯くのではなく、高い空を見上げてみた。
雲ひとつない空。木月が立っているところまでは届かないが、高いところでは風が吹いているようで、裏山の木々はさらさらと揺れ、鳥たちは滑空していた。

高い位置で目線を泳がせていた木月は、ふと自分が何か不自然な光景を見たような気がした。
何だったのだろう、目線を逆戻りさせると、校門側の高い木のてっぺん付近に、人が座っていた。透けるような白い肌に長い銀色の髪、細身のパンツを履き、羽織ったシャツは風になびいている。
距離にして50メートルもないだろうが、比較的遠目なので、顔つきまでは分からない。
しかし木月と"その人"の視線が何度かかち合ったことは分かった。

当たり前の様にそこにいたので気が付かなかったけれど、常識的に考えるとあり得ない。
しかし木月は何故か動じなかった。
目立つ外見をしているわりに誰も騒ぎ立てていないことを考えると、もしかしたら自分だけが見えている幻なのかと思った。
誰か、他に気づいている人はいないのだろうか。
注意深く周りを観察していると、"その人"はひらりと木から降りた。
降りたときに木は全く揺れなかったし、何より降りたはずの辺りに"その人"がいなかった。

消えた?

そう思った瞬間「あっ」と近くで小さな声が聞こえた。
声のする方向を見ると、さっき"その人"がいた方向を睨んでいる男子がいた。
名前・・・誰だっけ。ほっそりしていて色白で、女の子の様に綺麗な顔立ちをしている。
この人にも見えたのかもしれない。そう思った時チャイムが鳴り朝礼が終わった。木月は"その人"と、"その人"を見たかもしれない男子が気になったが、ガヤガヤと教室へ戻る波に自ら呑まれた。
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