進撃 第壱扉 [dream]
□起きろ
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病室に行くと、マヤは相変わらず寝ていた。
街へ帰ってすぐ、マヤはじめ怪我人は、マヤの務めている病院へ運ばれた。
きっと無事でいてくれる。
そう思いながらも、病院へ運び込まれる荷車を見ながら、リヴァイは恐怖に襲われずにはいられなかった。
マヤを失いたくない。
それは哀しみでも不安でもなく、恐怖だった。
その後は遠征の事後業務に追われていたのだが、病院から、マヤがの名を呼んだと聞かされ、業務の合間を見つけ様子を見に訪れたのだ。
遠征から一週間。
リヴァイの前では、マヤは一言も発さずに眠り続けている。
髭の局長が言うには、かなり失血しているから体力回復するまではこの状態だという。
しかし、体力が回復するかどうか、ぎりぎりのところまで血を失っているのも事実であるようだった。
起きろよ。
ここは、お前が俺を治す場所だろう?
何でお前が寝てるんだ。
逆じゃねえか。
エルヴィンとは既に話がついていた。
向こうから話を振ってきたのだ。
「リヴァイ、すまなかったな、マヤのこと。
確かに彼女のことは愛していたんだが、苦しめてまで一緒にいようとはもう思わない。
お前と共に幸せにと、伝えてくれ。」
団員からも、マヤの様子を心配されることが何回かあった。
マヤと一緒に宿舎で酒を飲んだことは、既に殆どの兵員が知っている程噂になっていた。
アンリやハンジの野郎共が、噂に尾ひれをつけまくっているせいかもしれない。
全てが、自分たちを祝福している。
おい。
こんなことは、俺は初めてなんだ。
お前もおそらく、初めてなんだろう?
俺は正直、こういう個人的な祝福の受け止め方を知らない。
お前と一緒なら、分かる気がするんだ。
だから、起きろ。
「マヤ...。」
その時、リヴァイは初めてマヤの名を呼んだことに気が付いた。
側にいた時間は短くはなかったはずなのに。
自分の馬鹿さ加減にリヴァイは苦笑した。
リヴァイはマヤの手をとった。
白く細くしなやかで、一本一本の指はそれぞれに眠っているように見える。
そういえば、最初はお前のこの手に惚れたんだった。
心に枷があり、身体も義足のマヤが、この手で手技をしたりしているときはとても自由に見えた。
こいつも、 不自由を思い知っているからこそ、限られた自由への渇望があるのだと直感で分かった。
リヴァイはマヤの手に唇をつけ、手を重ねた。
暖かく脈打つのが分かる。
力強い。
その感覚に安心し、リヴァイは連日の睡眠不足から眠りに落ちた。