進撃 第壱扉 [dream]

□告白
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「蓋をしてるだけ。」

気づくとマヤは恐ろしく座った目つきをしていた。

こういう目をリヴァイは見たことがあった。
地下街の連中だ。
心が荒んでいる者の目。
修羅場に慣れている者の目。
その目は何処も見ていない。

マヤの顔にはさっきの困惑が名残っていたが、声には感情がなかった。

マヤはゆっくりと話し始めた。
まるで渋々、講義の教本でも読むように。

「私、母親を殺しました。」

マヤの実家はウォール・シーナ内の裕福な家だった。母方の遠縁は貴族だ。
母親はもともとヒステリー持ちだったが、マヤが小さい頃訳あって父親が家を出ていくと、その矛先はマヤへ向けられた。
マヤが10歳の時、母親はいつものようにヒステリーを起こし、包丁を出して暴れていた。彼女のヒステリーに、マヤは心底うんざりしていた。
きっかけは何だったか分からない。その日のマヤに、何かスイッチが入った。マヤは絶叫すると母親を蹴り倒し、転がった包丁を拾って母親を切りつけた。
これでこの地獄から解放される。母親の腹に包丁を突き立て血まみれになったマヤは、その瞬間ホッとさえしていた。その後、さらなる地獄が待っているとも知らずに。
腹を切っただけでは人は死なない。それは幼いマヤには知る由もなかった。結果母親は生き延び、マヤに対して、自分を殺そうとした酷い子で、誰にも愛される価値がないのだと言い続けた。マヤが彼女を襲った時の包丁を見せびらかしては、それでマヤの前で派手な自傷行為を繰り返した。
そしてある日、自傷行為に失敗して本当に死んだのだ。やっぱりマヤの目の前で。

「私が怖いのは巨人じゃなくて、母親を殺したくて殺せなかった、無力で臆病な私です。
ブレードを見ると、あの包丁を思い出す。
だから上手く使えないんです。」

そこまで話すと目の奥のヒヤリとした冷たさは、少しずつ薄らいでいった。
マヤはふうと一息ついて、顔に笑顔を戻した。

「アンリ達にはうっかりばれてしまったんです。
可哀想って言われて、だからわざと泣きながら話しました。
何でかな、兵長ならそのまま話してよい気がしたんです。」

マヤは髪を耳にかけた。少しだけ赤くなった耳がのぞく。

「話して何か変わったか?」
「そういうものじゃないです。」
「まあそうだ。」

そこまで話すと、マヤはふっと肩の力を抜いた。

自分のエゴで聞き出し、それによってマヤが救われたわけでもない。
しかし今確実に、二人だけを覆う空気が出来ているのが分かった。

やっと、少し近づいた。

リヴァイは続けた。

「お前が母親に虐待されていなかったら、お前は“あの日”に死んでいただろうな。巨人に挑まなかったからお前は生き延び、俺を治してる。それは...悪いことじゃない。」

マヤはしばらくその言葉を自分の中で咀嚼し、呟いた。

「そっか。確かに、悪くないですね。」
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