執事たちの恋愛事情

□影を踏む。
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「おはようございます、お嬢様」

毎朝の日課になった濃いめのミルクティー。
砂糖を迷いなくティースプーンで2回すくって溶かすと、お嬢様が布団からもぞもぞと出てきた。

「今日は凄くいいお天気ですよ」

カーテンを開けながらお嬢様に微笑みかけると、ティーカップから唇を離して

「それじゃあ、今日は外でお茶しようかな」

と、まだあどけなさの残る顔で微笑んだ。


しばらくしてミルクティーを飲み干すと、立ち上がる。
柔らかい朝日がお嬢様の影を作った。


パウダールームへ向かうお嬢様に、制服を持ってついていく。

そして、革靴のつま先でお嬢様の影の端を踏む。
一歩、一歩と。
パウダールームの扉の前までそれを続けた。

実はこれも毎朝の日課になってしまった。



あれは確か小学生の頃だった。
当時のクラスの女子が夢中になって読んでいる本があった。

絶対効く!!恋のおまじないパーフェクトブック

桃色の表紙に、箔の文字が綺麗な本。

ある日隣の席にちょうど開かれていたページに乗っていたおまじない。

片思いの相手の影を誰にも気づかれずに踏むと、両想いになれる!

当時はこんなもの効くはずがないと鼻で笑ってすぐに忘れた。
何でも努力して乗り越える性格だっので、尚更信じなかった。

大人になってお嬢様に出会い、どうしてか信じてみたい気持ちになった。
叶わぬ恋だからおまじないに頼るのか。
本当に…?
どっちにしろそれだけ真剣なのだ。

思いを伝えてしまえば、もう同じようには笑ってくれないかもしれないと思うと…

一線を越える勇気がどうしても湧いてこなかった。




「お待たせ」

制服に身を包み、きちんと髪を整えたお嬢様が出てくる。
カバンを受け取ると、柔らかく笑ってありがとうと言った。

「いいえ。」

明日の朝も貴女の影を踏むだろう。

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