執事たちの恋愛事情
□雲空
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雲音
「それは…その……どのような意味でございますか?」
目の前には涙目で頬を桜色に染めるお嬢様。
たった今、自分のお使えするご主人様に告白≠ウれた。
無論告白≠ニいえば愛の告白だ。
ただ、そんな状況を受け入れられていない自分は間の抜けた調子で質問を反復する。
「だから…その、私はっ…!」
真剣な言葉たちが俺の耳を抜けて、今日の曇空に溶けた。
「お嬢様……」
俺は気持ちには応えられない事を、真剣に伝えた。
心からお慕いしているお嬢様の頬を伝い落ちる雫を
拭ってさしあげることすら叶わない。
けれども、お嬢様の気持ちに応えることは絶対にできなかった。
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「私はカサブランカより、ユリのほうが好きなのよね…」
「さようでございましたか!でしたら本数を増やせば、カサブランカに劣らないくらい華やかになると思いますよ。」
「じゃあそれでいこうかしら」
サロンで奥様が、結婚式当日の装飾について打ち合わせをなされていた。
幸せそうな表情で、瞳をきらきらさせて。
でもその笑みは
睫毛に溢れんばかりの光をのせて笑うその微笑みは
旦那様のモノ…で。
左の薬指に永遠を誓った約束の輪は
もう自分にはひとかけらも望みはないと突きつけられたようで
今日もまた
ジリジリと
胸を焼くのだった。
注ぎ終わった紅茶をお客様と奥様の目の前に置く。
時折奥様と話をしながら
今日も爽やかな執事の仮面で俺は立っていた。
貴女のお傍にいられるのなら…。
私はきっと誰にだってなれる……。
雲はまだまだ晴れそうになかった。