執事たちの恋愛事情

□午前2時
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ー樫原が見る景色ー


今日はお屋敷でパーティが開かれた。
時刻は既に午前2時。
屋敷内は先程までの騒がしさを忘れ、静まり返っていた。


すごく遅れてしまった。

いつもなら、お休み を言いに部屋に行くのだが、今日は忙しくて 、そんな間もなかった。

……寂しがっているかな。

彼女の部屋のドアの前にたつ。

起きてしまわぬように、そっとドアノブを 回し、ドアを押すと、寝息が聞こえてきた。

ベッドの上には、月明かりに照らされたお嬢様が眠っている。

その神秘的な光景に息をのむ。

しゃがんでじっと顔を見つめる。

唇から漏れる規則正しい寝息。

閉じられた長いまつげ。

愛おしくて、いつしか頬に触れていた。

「……んっ」

長いまつげに縁どられた瞳がゆっくりと開く。

「ごめん。起こしたね」

「侑人さん…?」

寝ぼけた様子の彼女はいつもより幼く見 えた。

「顔見たいんじゃないかなって さ」

「なんでもお見通しなのね」

そして肩をすくめてクスッと笑った。私の髪を小さな 手でなでる。

一瞬ドキリと胸が甘く波打った。

「あんまり可愛い顔すると…… 」

「え…」

言い終わらないうちに唇をふさぐ 。

いつものキスとは違う。 舌が絡み合い、溶けてしまいそうな熱いキス 。

初めてなのか、ビクッとなるもの の抵抗はしてこなかった。

長く、深く、熱く……

「んっ…」

時々聞こえる声が私を誘っているかのように 聞こえる。

「…っは」

唇を離したときの頬と唇が赤みを 帯びて、瞳が潤んでいる。

これ以上は…

立ち上がると、わざと執事に戻った。

「それでは、お嬢さま。…お休みなさいませ。 」

にっこりといつもの笑顔で部屋を後にした。

部屋を出る時、彼女は寂しそうな表情をしていた。

自分は執事、彼女はお嬢様。
恋人同士とはいえども近くて遠い二人の距離に、胸が痛んだ。

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