故に、私は恋をする
□指先メトロノーム
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キャリーバックの中には必要最低限の生活用具や着替え。
マスターコースの寮と今私が一人暮らしをしているマンションは距離10分と比較的近い。
足りないものがあればちょくちょく帰ればいいわけで、とりあえず今日一泊分の物だけ用意しておいた。
本来の私、神代キノ、Shinoは皆性格が違う。
Shinoがアゲアゲで人懐こいのに対して、神代キノは物静かであまり人と話したりしないという正反対の性格なんだ。
キノの場合は、ワザとShinoとの違いを色濃くしたわけだけど。
これが面倒で面倒で。
「あ、おはやっぷ〜!キノちゃん!」
「おはようございます」
挨拶は礼儀正しく。
これが神代キノ。
Shinoと同一人物だと知っている人は数少ない。
社長、林檎は勿論、事務所のお偉いさんとかも含めて。
「全員が集まるまであとどれくらい?」
「んー、30分くらいよ」
「それでは急がなくてはいけませんね」
「ふふっ、なんか変なカーンジ」
いつも通りのキノの口調で話していれば、肩を震わせて笑う林檎に首を傾げる。
ウィッグの付け方間違えたかな?
「......なんか変?」
「んー、そうじゃなくて」
幾分か身長の高い彼が近付いたかと思えば、
「かわいい」
「っ!!」
耳元で囁かれた言葉に、肩が跳ねる。
見慣れてる筈なのにね、とわざとらしくウィンクしてくる彼に、私は動悸を激しくしてばかりだ。
最近になって特に。